フランス:CAP改革適用の基本的様式を決定

農業情報研究所(WAPIC)

04.5.21

 5月18日、フランスの農業・食料経済上級方向付け会議がフランスにおける共通農業政策(CAP)改革適用の基本的様式を定めた(⇒Le conseil supérieur d'orientation du 18 mai 2004 arrête les principales modalités d'application de la réforme de la PAC)。上級方向付け会議は農相(正確には農業・食料・漁業・農村問題相)が主宰し、関連職業団体が参加する、農業生産の方向付けや市場組織化のための政策を策定・調整・実施・評価するための機関である。改革の核心は農業者への直接援助を生産から切り離し(「デカップリング」)、この支払いを環境・動物福祉などに関するEUの法定基準の尊重で条件付けることにある。ただし、改革論議の途上、フランスは全面的デカップリングに強硬に反対、一部援助は生産に関連付けることを認めさせた(部分的デカップリング」)。今回の決定は、このようなデカップル・部分的デカップル直接支払いの基本的様式と実施のスケジュールを定めるものだ。これにより、改革実施のための基本的準備作業が一段落したことになる。以下に決定の内容を紹介するが、理解のためには今次CAP改革に関する基本的知識も必要と思われるので、EU共通農業政策(CAP)改革の内容(04.5.8)も併せて参照されたい。

 デカップル・部分的デカップル直接支払い

 デカップリングは、生産の現状の如何にかかわらず、2000-02年の直接援助受給実績に基づき各経営に(作物横断的な)単一支払い受給権を配分するものだ。その開始時期は05年、06年、07年のいずれかを各国が選択するものとされているが、フランスは06年から実施するとした。それまでは現行の直接支払いが続く。単一支払い額は、2000、01、02年に受け取った援助の平均額に応じて経営ごとに計算されるとされた。支払い受給権は各経営の援助水準を維持するために基準期間の援助受給実績に応じて配分する、限定された地域内の援助受給実績のない農業者も含めたより広範な農業者間に画一的支払い受給権を配分するという、例えば英国が採用しようとしている方式は採らないということだ。これにより、少数の大規模農家が大半の援助を手にするという従来の構造も温存されることになる。

 ただし、部分的デカップリングの採用により、穀物にかかわる直接援助の25%、肉用繁殖母牛奨励金の100%などが生産に関連付けられる。 

 

 例:穀物用の20haと10頭の肉用繁殖母牛を持つ飼料用の20haを経営する農業者の場合

 基準期間の毎年の援助受給額は、20ha×250ユーロ=5000ユーロの面積支払いと10頭×200ユーロ=2000ユーロの繁殖母牛奨励金を合計した7000ユーロであるが、2006年の受給額は次のデカップル支払いと非デカップル支払い(経営状態が変わらない場合)を合計した7000ユーロとなる。

・デカップル支払い:2006年の生産にかかわりなく支払われる基準期間の平均穀物面積支払いの75%、すなわち、5000ユーロ×75%=3750ユーロ。この基準額は、支払い権の形で配分される。配分される権利の数は、2000-02年にCAP援助の対象となった平均面積に応じて配分される。この場合、それぞれ(3750/40=)93.75ユーロの額面価値を持つ40の権利が配分されることになる。

・非デカップル支払い:(2006年に穀物20haを耕作していれば)25%×250ユーロx20ha=1250ユーロと(2006年に10頭の肉用繁殖母牛を飼育していれば)10×200ユーロ=2000ユーロ。

 ただし、土地の移転がある場合の計算はもっと複雑になる。これは、土地移転が2004年5月15日の前に起きたか、後に起きたかで異なる。

 例えば、上記農業者が02年末(基準期間の最後)に穀物面積10haを売却した場合、販売された土地に対応する額の90%が国の予備として回収され、残り10%がこの農業者の残り10の権利に再配分される。この場合、10haの経営に額面価値206ユーロの10の権利が再配分されることになる。

 2004年8月に穀物面積10haを販売したとすれば、10haの経営に187.5ユーロの額面価値の10の権利が配分されるが、この取引には課税される(後述)。 

 このようなデカップル支払い受給権は、土地の譲渡に伴い移転されるが、土地移転を伴わない支払い受給権の移転も認められている。これは支払い受給権の投機的取得を引き起こす恐れがある。従来も、専ら援助受給を目当ての投機的生産権=土地取得が横行、土地集中を加速して後継者の自立(経営創設)等による新規参入を妨げ、ひいては経営数の激減を引き起こすという直接援助の弊害が指摘されてきた。今後は土地を伴わない支払い受給権の投機的取得が、こうした「副作用」を一層強める恐れがある。後継者が構成する青年農業者センター(全国組織はCNJA)はこの懸念を強く表明してきた。こうした投機的行為をどう抑制するかは、今回の決定の最大の争点でもあった。ゲマール農相は、こうした投機の十分な防止措置が取られたと自賛する。

 04年5月15日以降、あらゆる農地取引は、対応する単一支払い権が土地に関連しているのかどうか明示されねばならないとされた。にもかかわらず、投機を回避し、新規参入を助長するための監督システムが適用される2006年5月以降にならなければ、支払い受給権の移転は有効にしないという。次のような諸原則が適用される。

 ・単一支払い権を受け取るためには、農業者は対応する土地を保有せねばならない。

 ・権利は県の内部でのみ移転できる。

 ・土地を伴わない権利の交換については、投機を避けるために50%の税を課される。

 ・土地を伴う権利の交換については、青年農業者(後継者)の場合には課税されない。一般の場合には3%課税され、県が定める基準を超える経営拡大になる場合には10%課税される。

 ・自立する青年農業者への権利移転は、すべての課税を免除される。自立してから5年以内で、自立援助受給のための主要基準を満たす青年農業者への譲渡も同様に扱う。

 ・3年間利用されなかった権利は自動的に国の予備に組み入れられる。

 この国の予備は国の権利総数の3%までを予め徴収することで構成され、条件に違反した農業者から取り上げられる権利で補完される。この国家予備の権利は新規参入者に無償で配分することができる。また、残りは農業活動開発や再編成の永続的集団計画に役立てる。

 なお、これらの規程の実施に先立ち、05年にシミュレーションが行われ、06年の実施前に起こり得る個別の状況の変化を斟酌するために必要になる訂正を行うこともあるとされている。

 援助の条件付け

 2005年以後、EU援助は環境保全、家畜の個体識別に関する規則の尊重、永年草地の維持を含む適正な農業・環境条件の尊重で条件付けられる。このための監督が毎年行われ、違反の場合には罰則が適用される。06年からは、動植物保健、病気の通報、07年からは動物福祉がこの条件付けに加わる。

 援助の減額(モジュレーション)

 EU規則は、強化された農村開発措置と生産の危機管理の資金を調達するために、比較的大規模な農家への直接援助の減額を定めている。これは05年から実施され、減額の率は、EU規則に従い、05年3%、06年6%、07年以降5%となる。ただし、直接援助受け取り額が5,000ユーロに達しない農業者には、このモジュレーションは適用されない。

 このような決定に対し、青年農業者センターは、この改革自体が「ウルトラ自由主義」の観念に基づくもので、断固反対すると従前の主張を繰り返しながら、土地を伴わない権利移転にかかわる投機の抑制措置については歓迎している。ただし、土地を伴う権利移転への一般課税の率は低すぎると批判する。また、支払いの条件付けに関しては、適正農業規範とは何の関係もない「しばしば不条理」な規則を批難するMise en ?uvre de la PAC, pour Jeunes agriculteurs " difficile de faire du bon avec du mauvais " ,Agrisalon,5.18)。

 多数派農業者組合・農業経営者連盟(FNSEA)は、「仮面は落ちた」と題する声明Réforme de la PAC : les masques tombentを発表、「支払い権はウルトラ自由主義と極度の複雑性を両立させる奇蹟」、「援助の条件付けは無用な書類とコントロールの雪崩への賛歌」だと言い、この改革は弱者の切り捨てと他の者の弱体化につながると批難する。そして、「あらゆる分野の義務、申告、負担で既に過重な重荷を軽減するために、あらゆる操作[マヌーバー、策略]の幅を探求し、利用することを要求する」と言う。

 それはともあれ、改革の実施がヨーロッパの農業・農民・農村をどう変えることになるのか、農業・農民・農村の将来を案じる者には無関心ではいられない。欧州議会も既に、競争力と多面的機能の両方を追う現在のCAPの正当性と必然性を認めながら、その実現の困難を強調、改革によって期待される変化を十分に実現できるという幻想を抱いてはならない、現在の不安定で混乱した国際環境(WTO等)を考えれば、とくに価格・市場政策と、農村開発次元で補完される公的援助政策に関連する決定のために残された時間は少ないと警告していた(⇒欧州議会、公正な農家所得安定策―競争力と多面的機能を両立させるCAPを要請,04.2.10)。これは、そのままわが国が直面する問題でもある。改革の実施とその結果に最大限の注意を向けたい。

 関連情報
 英国:改革CAPの下での農業者助成計画,04.2.16
 
フランス、06年からCAP改革実施を決定、農民は破滅的影響と反発,04.2.20

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