フランス乳価交渉が決着 生産者の抗議行動停止も、生産費を補うにはほど遠い

農業情報研究所農業・農村・食料欧州ニュース:16年8月31日

 830日、フランス西部牛乳生産者と乳製品製造企業・ラクタリスグループの乳価交渉が決着し、ラクタリス製品のスーパーからの撤去、工場前での家畜糞尿ぶちまけなど数週間続いてきた抗議行動の停止を全国農業経営者連盟(FNSEA)が要請した。

 交渉で、今年最近5ヵ月の平均支払乳価をトン当たり290ユーロ(33350円)とすることが取り決められた。これにより、2016年の平均乳価はトン275ユーロ(31625円)になる。西部地域農業経営者組合連盟のパスカル・クレマン会長は、「これは今までにラクタリスが提示してきた価格を大きく上回る」と言う。FNSEAも抗議は有効だった、これで2015年4月のEU牛乳生産割当廃廃止以来の乳価下落スパイラルも止まるだろう言う。

 ただ、生産者が獲得した290ユーロをもってしても、330ユーロから380ユーロとされる生産費には遠く及ばない。今回の合意によっても、この二年の酪農農家の窮状の改善は見通せない。

 Crise du lait : les producteurs font monter la pression sur Lactalis,Le Monde,16.8.30

 生産割当廃止→自由競争で競争力強化を目指したEU酪農政策だが、その結末はこのありさまだ。生産割当廃止に当たり、欧州委員会はこんな風に言っていた。

 、いまや牛乳消費は大きく増加しており(特に世界市場において)、将来も増加すると期待できる。生産割当を廃止しても、かつてのような構造的過剰生産は起きない。バター、粉乳の保証価格は、今では単なるセーフティー・ネットして機能しているだけで、生産者は市場を見てどれだ生産するか決める 2015326日、Frequently Asked Questions: End of milk quotas)。

 ところが、である。生産割当が廃止されると域内牛乳生産は急増した。フランスなど大生産国だけでなく、エストニア、ラトビア、リトアニアなどバルチック諸国の生産増加も著しく、域内諸国入り乱れての大乱戦となった。農家所得は乳価下落と高い生産コストのために半分以下にも低下した。農家は窮すればさらなる増産に走る。労働強化や好調時の貯金でやりくりしているが、破産は時間の問題だろう。

マニュエル・ヴァリス仏首相は、今回の合意で酪農部門の危機脱出の道がが見えてきたと言っているが、実際のところ、危機脱出は遥かに遠い。来年から生産調整を廃止する日本の稲作の将来も思いやられる。県間の大乱戦が起きるかもしれない。

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