農業情報研究所

01/10/22


日本:初の狂牛病の疑い

農業情報研究所WAPIC

01.09.11

 農水省が、10日、千葉県の乳牛に狂牛病の疑いがあることを発表(農水省:牛海綿状脳症(BSE)を疑う牛の確認について(13.9.10) 。最終確認のための検査は英国かスイスに依頼する可能性。もし確認されれば、欧州以外で初めての発生となる。6月、日本はEUからの警鐘を推し戻しているだけに(日本:EUの狂牛病リスク評価に反発、報告書公表を阻止、01.6.19)狂牛病対策の甘さが一層際立つこととなった。それだけでなく、輸入肉骨粉が感染源とみられ、それが世界中に輸出されていたことによる狂牛病グローバル化の脅威は一層大きくなったといえよう。

 11日付け国内各紙はこの報道に大きなスペースを割いている。ここで詳報するまでもない。ただし、これら報道のなかで、人への感染の可能性に関して、いくつかの気になる点がある。

 1.多くの報道は、識者や農水省等の眼球・脳・脊髄(特定危険物質と呼ばれる)などを除く「普通の肉」は食べても大丈夫と主張を強調している。しかし、「普通の肉」とは特定危険物質(現在のEUでは、12ヵ月齢以上の牛・羊・山羊の脳髄と眼球を含む頭蓋・扁桃腺・脊髄、全年齢の牛の十二指腸から直腸までの腸、すべての羊・山羊の脾臓)を除く肉のことなのだろうか。EUでは、これら危険物質が含まれる可能性の高いT・ボーンステーキや機械的回収肉(MRM、高圧で骨から取った原料肉で、安価なバーガー、ソーセージ、パイ、こまぎれ肉などに使われている)の食用使用も禁止しているが、これらはどうなのか.様々な食肉加工品や牛脂(例えばスープに使われる)は大丈夫なのか。消費者に正確で詳細な情報を伝えるべきであろうし、もし危険となれば食物連鎖から徹底的に排除するための措置が必要になるであろう。

 2.そうした措置においては、屠畜方法や屠体の解体・処理の過程で特定危険物質が食肉部分から完全に除去されるように、また食肉部分に付着しないように保証する必要がある。「普通の肉」を食べても大丈夫というのは、そのような前提の上である。しかし、それを保証するのは容易なことではない。英国でも、脊髄が付着した輸入肉がしばしば発見されているし(イギリス:輸入牛肉中に特定危険物質(脊髄)を相次ぎ発見,01.1.31)、屠殺方法に関しての問題の指摘もある(英国:vCJDは伝統的屠殺方法に起因、BSE潜伏期間は10−16年,01.3.25)。この点について、日本の状況はどれほどわかっており、またどのような措置が講じられているのだろうか。これらに関する情報もほとんどない。

 3.外食産業はオーストラリアや米国からの輸入肉を使っているから大丈夫と強調している。オーストラリアは、ニュー・ジーランドとともに、狂牛病リスクの最も少ない国とされている。しかし、米国は、日本と同様、リスクが完全に排除はできない国である。多くの問題が指摘され、米国政府も狂牛病排除に懸命な措置を講じつつある(米国:狂牛病防止のための連邦ルール遵守を求める動,01.03、米国:保健省、狂牛病対策強化を発表,01.8.24、米国:狂牛病侵入防止策を強化,01.8.18、国:専門家、米国の狂牛病措置に欠陥を指摘,01.5.8)。特に気になるのは、牛丼安売り競争で牛肉消費が増えるなか、米国からの低級部位の牛肉輸入が急増していることである。狂牛病のグローバル化の脅威のなかで、オーストラリアは、リスクが無視できると考えられる国に対してさえ、狂牛病汚染防止措置を取っていることの証明を義務づけた(オーストラリア:牛肉輸入規制を全輸出国に拡張,01.8.20)。

 初期の対応の甘さが取り返しのつかない危機を招いた欧州の経験に真剣に学ぶ必要があろう。 

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