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フランス:農水省、同居牛等廃棄政策緩和をAFSSAに諮問

農業情報研究所(WAPIC)

02.9.11

 APが伝えるところによると(ESB: le gouvernement saisit l'AFSSA sur un arr?té assouplissant l'abattage sélectif ,Yahoo!/AP,9.8)、フランス農水省は、狂牛病が発見された際に屠殺処分(淘汰)する牛群の範囲を狭める省令案を食品安全機関(AFSSA)に諮問した。AFSSAの同意が得られれば、患畜が生まれた1年前から1年後に生まれた牛と患畜の子だけを淘汰することになる。従来、患畜と同一牛群に属する牛すべてが淘汰されてきたが、今年2月1日から、肉骨粉全面禁止が有効になった2002年1月1日以後に生まれた牛は感染の可能性が小さいとして除外したばかりである(フランス:BSE確認後の屠殺・廃棄政策変更へー2002年1月以後生まれの牛は廃棄対象外にー)。

 担当官は、この案は多年にわたり屠殺されてきた牛に関して行なわれた分析のすべての結果に根拠を置くと言う(農水省の発表がないので、詳細は不明)。しかし、2002年1月1日以後に生まれた牛のみの淘汰除外を認めたばかりのAFSSAが、さらなる措置緩和を認めるかどうか定かではない。中道右派政権誕生以来、フランス農政は左派政権の環境・食品安全重視の姿勢を急速に後退させつつある(フランス:政府交代で農政逆戻りの兆しー「モジュレーション」停止,02.5.25、フランス:国土経営契約(CTE)を中断、費用が高すぎる)。生産者におもねるあまりの行政の勇み足となる可能性もないではないと思われる。

 このような措置は、理論的には、(1)狂牛病は水平感染はせず、重要な伝達経路は飼料であり、僅かながら母子感染の可能性もある、(2)感染は、通常、子牛の時期に起き、子牛の飼料は年上の牛には使われない、ということを前提として成り立つものである。さらに、(3)狂牛病は極めて稀な病気であり、その発生率は非常に低いという現実的事情がこのような淘汰方法を後押しするであろう。ただし、狂牛病が感染早期に発見できれば、このような措置さえ必要はなく、病気が確認された牛だけを処分すればよいということにもなろう(現状では、潜伏末期、発症間近に発見できるだけである)。

 実際には、(1)狂牛病の原因あるいは伝達経路は飼料と母子感染に限られないかもしれない。昨年11月のEU科学運営委員会(SSC)の「BSEの起原と伝達の仮説」と題する意見書(Opinion on hypotheses on the origin and transmission of BSE)も、第三の伝達経路は今のところ科学的な明白な証拠はないが、中心的とされる感染源についても科学的明証があるわけではないと言う。すべての仮説ー環境汚染(例えば、狂牛病感染牛の埋葬からの)の可能性も含めてーが、支持するにしても、否定するにしても、十分なデータがない、病源体の本性について「オープン・マインド」を維持することが現在の「最も賢い」態度だと言っている。(2)も科学的に確認されているわけではない。(3)については、フランスの狂牛病確認数は、死亡牛等の検査の導入とともに急速に増えているが、それでも「稀な病気」と言える程度の発生率ではある。

 ちなみに、SSCは、2000年の意見書(BSE-related culling in Cattle)は、これらを前提とした上で、狂牛病確認牛の出生日の前後12ヵ月以内にこれと同一牛群で生まれたか、育てられたすべての牛の淘汰(これらの牛のすべてが、現在の居場所と関係なく、トレースされ、屠殺され、廃棄されねばならない)=コーホート淘汰が、牛群淘汰よりも有効な淘汰だと述べている。ただ、この場合にも次のことが考慮されねばならないと言う。

 ・感染源となった飼料の正確な認定ができないかぎり、同じ飼料を食べたすべての牛をトレースすることは不可能である。従って、すべての牛の淘汰が副次的に最適な淘汰方法となる。

 ・現在の牛群とは無関係な、感染確認牛が生まれる前後12ヵ月以内に、同一牛群で生まれたすべての牛の淘汰は、トレーシングが信頼できるかぎり、可能な妥協的選択となる。生まれてから12ヵ月の間に感染牛と同居したが、他の牛群で生まれた牛も含めることで、一層改善される。

 ・トレーシングが信頼できなければ、牛群全体(感染確認牛が生まれ、最初の1年間育てられた牛群が望ましい)淘汰が次善の選択となる。

 ・淘汰計画の効率性はサーベイランスの質に大きく依存するとすれば、疑わしい牛を通報する意志への影響が考慮されねばならない。スイスでは、牛群淘汰から出生コーホートへの淘汰計画の変更により、通報が増加した。

 ・出生コーホートの危険性を大きく変化させる肉骨粉禁止の導入、特定危険部位の禁止の導入、レンダリングに入り得る感染性の量の削減(制度導入ではなく、実効性)などの様々な要因が淘汰基準の決定の際に考慮されねばならない。

 これら複雑な要素に鑑み、AFSSAがどのような結論を出すのか注目して待ちたい。

 ところで、わが国北海道の酪農協会は、イ)当該牛が1歳になるまでの間に患畜と同居したことがあり、患畜と同じ飼料を給与されていたことが否定できない牛、ロ)患畜の生まれた農場(牛群)において患畜が生まれた日の前後12ヵ月の間に生まれ、患畜と同じ飼料を給与されていたことを否定できない牛、ハ)患畜が発病する前2年以内及び発病後に患畜から生まれた牛というわが国の現在の「擬似患畜」(淘汰すべき牛)の範囲(すなわち、前記のSSCが取り上げた淘汰範囲)が広すぎるとして、イ)を除外するように求めているという(「BSE擬似患畜 認定範囲絞りこみを 北海道酪農協会」、日本農業新聞、02.8.18)。しかし、上記に照らし、これは根拠がうすく理解し難い上に、是非を判断するためのデータも余りに乏しい。感染経路は五里霧中、その解明を助け、発生率を知るために不可欠の廃用牛検査は滞り、病牛・死亡牛検査は始まってもいない。肉骨粉の全面禁止は最近のことだし(この点はフランスも同じだが、フランスは96年以来、肉骨粉の感染性の除去または低減のための措置=危険部位の除去を行なっている) 、早々と部分解禁されている。混入防止策も2001年6月に「ガイドライン」が出されたばかりであり、どこまで有効かもつかめない。環境汚染はまったく念頭に置かれていない。特定危険部位除去は始まったが、その実効性には疑問がある。仮にフランスの新案が認められたとしても、そのまま日本に適用できる状況ではない(日本:消えない狂牛病リスク,02.9.5)。

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