英国 肉骨粉追放以後に誕生の牛のBSE感染研究を専門外独立研究者が再検討

農業情報研究所(WAPIC)

04.11.26

 英国環境食料農村省(DEFRA)が23日、96年8月1日以後に生まれた牛のBSEのケースに関するその研究の独立専門家による再検討を行うと発表した(INDEPENDENT EXPERT TO REVIEW DEFRA'S WORK ON BSE CASES BORN SINCE 1 AUGUST 1996 IN THE UK)。その実行者として、エジンバラ大学生物科学スクール進化生物学研究所のウィリアム・ヒル教授を指名したという。

 96年8月1日は、BSE伝播の中心的経路とされる肉骨粉が英国から完全に追放されたときだ。96年4月には、飼料への混入を防ぐために農地で使用される肥料としての肉骨粉の使用も禁止、8月からは肉骨粉の所有を禁止、その処分・回収を終えるとともに、それが使用された場所・車・施設の洗浄と消毒も行って、肉骨粉を完全に追放した。97年からは飼料工場、飼料ミキサーを使う農家、その他飼料またはその成分が生産・貯蔵されるすべての場所からサンプルを集める飼料検査(エライザ法)も始めた。

 それにもかかわらず、8月1日以後生まれた牛99頭にBSEが発見されている。これをBARBのケースと呼ぶ。BARBのケースが何故生じたのか。DEFRAは、これまでどおりの飼料からの感染、垂直感染(母子感染とその様々な経路)、遺伝的要因や自然発生的な孤発型BSE、水平感染(同じ日か、1−3日遅れて生まれた牛の間での感染)、下水汚泥や屠殺場廃棄物からのリスク・感染動物の組織や排泄物からのリスク・鳥・鼠類・その他の生物からの伝達のリスクなどの環境からのリスク、自己免疫疾患理論、パーディー氏の有機燐やミネラル・アンバランス説など、考えられるあらゆる仮設を検討してきた。しかし、いずれも決定的な確証が得られないでいる。

 それでも、英国の海綿状脳症諮問委員会(SEAC)やEUの科学諮問委員会は、ヨーロッパの一部では01年まで肉骨粉が全面禁止されていなかったことから、なお飼料汚染が最も有力な説明になると見ている。BSE勃発当初、疫学的研究によって肉骨粉が最有力な感染経路であるといち早く結論、その後の飼料規制に導いたジョン・ワイルスミス教授のBARBのケースの疫学研究も、この説明を有力なものにしている。飼料検査では発見が難しい0.01グラムの感染性物質に一度曝されるだけで1頭の牛が感染すると分かっている現在、これは確か有力な仮説であり得る。

 しかし、DEFRAは、BARBのケースの少なくとも一部については、他の原因も排除はできないと言う。独立専門家による再検討に関する今回の発表は、「我々はこの病気の根絶を望んでおり、我々が重要な要因を見逃しておらず、我々が行っている研究が包括的で、科学的に健全だということを確かなものにするのが重要だ」と述べる。このために、自身の専門分野で卓越しているが、伝達性海綿状脳症(TSE)研究にはかかわることがなかったヒル教授を選んだという。教授には、今後6ヵ月以内に報告を求め、SEACにその考察を求めることになる。

 この報告がBSEの解明、そしてBSE根絶に向けての新たな地平を開くことになるのだろうか。そうでないとしても、少なくともそれに向けての努力の一段の強化につながるかもしれないという希望が生まれる。

 検査や特定危険部位の除去の限界をめぐって議論が白熱するのも悪いことではない。しかし、それが安全レベル向上のための小手先の技術論に終始し、BSE根絶という根本目標から目を逸らせるだけならば、それにかけた膨大なエネルギーとコストへの酬いは余りに寂しいものとなろう。どうすれば検査や特定危険部位除去などを無用とする社会ができるのか、議論は常にそれを見据えたものでなければならない。少なくとも、この問題に正面から踏み入ろうとするDEFRAの姿勢には学ぶべきものがある。

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