米国、カナダのBSE飼料規制遵守状況は良好 輸入規制緩和に問題なしの結論

農業情報研究所(WAPIC)

05.2.28

 米国農務省(USDA)が25日、カナダの飼料工場・レンダリング施設の飼料規制遵守状況は米国同様に良好で、カナダの牛集団におけるBSE伝達のリスクを減らしており、予定されている3月の輸入規制緩和(米国がBSE最小リスク地域ルール、カナダを最小リスク国に指定―何故、今?,05.1.5)が米国消費者の安全を損なうことはないと発表した(USDA RELEASES TECHNICAL ASSESSMENT ON THE IMPLEMENTATION OF THE CANADIAN FEED BAN)。今年初頭のカナダでの2頭のBSE発生を受け、1月24日からカナダの反芻動物→反芻動物フィードバンとフィードバン検査プログラムに関する評価のための情報を集めてきた専門家チームの報告(U.S. Department of Agricultures Assessment of the Canadian Feed Ban)に従うものという。

 報告書によると、カナダのフィードバンは米国と大差なく、乳製品・血液製品・ゼラチン・豚または馬由来の蛋白質を除く哺乳動物蛋白質の反芻動物飼料への利用を禁じるものだ。ただ、米国では残飯や養鶏場廃棄物の反芻動物飼料への利用が許されているが、カナダではこれは許されていない。

 このフィードバンは97年から実施され、カナダ食品検査局(CFIA)は飼料産業、家畜生産者、検査官の教育を始めた。97年8月から98年3月までに、すべての飼料工場が「最初の検査」を受けた。このとき、いかなる飼料工場も禁止物質を含む反芻動物飼料を調合していなかったという。CFIAは今年1月11日にBSEと確認されたフィードバン実施後・98年3月に生まれた牛に関する調査を完了、感染源はフィードバン実施後間もないときに製造された飼料と確認している(INVESTIGATION INTO JANUARY 11 BSE CASE CONCLUDES)。これは、明らかに、ここに言う「最初の検査」の結果と矛盾する。これだけでも報告書の信憑性に疑問が湧く。

 ともあれ、報告は次のように続ける。CFIAは97年から2,000年まで教育を継続するだけでなく、飼料産業にフィードバンを遵守させるための検査も続けた。レンダリング施設は、98年以降の操業許可更新前に年々の検査を通ることを要求された。2000年と2001年、CFIAは飼料工場の検査を3年に1回から毎年に増やすとともに、レンダリング施設の毎年の検査と許可を継続した。2002年以来、すべての飼料工場とレンダリング施設を毎年検査しており、一部の反芻動物飼育者と飼料小売業者の検査も行なっている。飼料工場の検査では86の個々の仕事が検査され、うち13がフィードバンに直接かかわる。問題が発見されれば30日以内の是正計画提出を要求、是正が行われたかどうか、30日以内に再検査している。

 CFIAのデータの米国による評価によると、2002年と2004年の間に、問題のある仕事の率は24,9%から14.8%に減った。その大部分は記録と記録の保存に関係するものである。レンダリング施設に関しても、この比率は9.7%から2.7%に減った。問題の大部分は、やはり記録と記録保存に関係するものである。レンダリングに関してはライン専用化、さらに施設そのものの専用化への動きがある。飼料製造施設にも専用化への動きがあり、禁止物質を扱い、反芻動物用飼料を製造する飼料工場は減っている。CFIAは、フィードバンの有効性を強化するために、基準の客観性を増すように検査様式を変更しようともしている(参照:カナダ、飼料成分の顕微鏡分析を評価 フィードバンの有効性の検証に限界,05.2.3)。また、すべての動物飼料からの特定危険部位(SRM)の排除も提案した(参照:カナダ農相、豚・鶏飼料への特定危険部位使用の早急な禁止を表明,04.9.5)。

 こうして、報告は、フィードバン遵守状況は良好で、有効に実施されている、また他の疫学的情報もこの有効性の証拠となると結論する。このよに結論するに当たり、リスク分析はフィードバンの100%遵守は前提とすべきでない、それは非現実的で、不完全なフィードバンでもBSE抑制の効果は期待でき、BSE発生率を大きく減らすと言う。

 問題はこの前提そのものにありそうだ。ヨーロッパの経験は、BSEは針の穴からさえどこまで広がるか分からないことを教えている。肉骨粉完全追放後に生まれた牛104頭(04年12月17日現在)にBSEが確認された英国がその好例である。EUと米国・カナダのリスク評価の違いは、この点を深刻に受け止めるか否かからくるのだろう。だが、安全第一と考えるかぎり、ヨーロッパ、英国の経験を重く見るのが当然だ。

 EU(欧州食品安全庁)は、●BSE感染牛がカナダで加工に入り、少なくとも一部は飼料用にレンダリングされたリスクは、80年代半ばに英国から輸入された牛が屠殺された90年代半ばに生じた、●このリスクは存続し、輸入肉骨粉により感染した国産牛が加工に入った90年代半ばに大きく増えた、●米国とまったく同様な(米国の地理的BSEリスクの評価に関する作業グループ報告(欧州食品安全庁),04.9.4)フィードバン・レンダリングの欠陥とSRM利用のために、リスクはBSEリスク国からの牛と肉骨粉の継続的輸入ととも増大したし、増大を続けると評価している(EFSA Scientific Report on the Assessment of the Geographical BSE-Risk (GBR) of Canada)。

 ところで、今回の米国の評価自体には問題があるとしても、輸入規制緩和の前提条件としてカナダの飼料規制の有効性を取り上げたことは評価できる。日本の農水省は、飼料規制の有効性は米国産牛肉輸入再開の条件にはしないと明言している(BSE対策、飼料規制は「牛肉の安全性を確保する措置ではない」 農水消費・安全局長,05.2.25)。飼料規制は牛から牛への感染を防ぐ措置、人間のリスクとは関係ないと言う。食品安全委員会プリオン専門調査会が、検査をしても(あるいは一部を検査から外すと)、SRMを除去しても、どれほどの感染牛、従って感染性が人間食料に入るかを懸命に検証しようとしているのに、こんな作業は無意味ということだ。審議に時間がかかりすぎる、さっさと結論を出せと農相が発言するのも、こんなリスク評価は無用と思っているからだろう。

 農水省の問題意識はUSDA以下だ。