米国 牛肉処理施設査察受け入れへ 日本の輸入条件早期緩和に期待

農業情報研究所(WAPIC)

07.4.24

  農水省と厚労省が24日、19日夜と20日朝に行われた松岡農林水産大臣とジョハンズ米国農務長官の米国産牛肉問題に関する電話会談の結果の概要を公表した。

 ということだ。

 松岡農林水産大臣とジョハンズ米国農務長官との電話会談の結果について,07.4.24

 他方、ジョハンズ米農務長官も23日、次のような声明を出した。

 冒頭で「米国と日本は、日本との米国牛肉貿易を拡大するための我々の努力において、二つの重要な最初のステップで合意した」としたあと、、米国牛肉処理工場の日本による追加査察を認めるのと引き換えに、これが完了したときには、「日本は米国工場から運ばれる牛肉の全箱検査の要求を取り下げるだろう」、「米国は、我々の貿易相手すべてとともに、日本が、科学に基づき、また国際獣疫事務局(OIE)の指針も含む国際的指針と一致する米国牛肉及び牛肉製品の輸入要件を、できるかぎり早く実施することを期待する」と言う。

 Statement of Agriculture Secretary Mike Johanns Regarding Beef Trade with Japan,07.4.23

 松岡農林水産大臣は、「検証期間が終わるとずいぶんいろいろな通常の幅広い対応ができてくるわけですから、全箱検査の問題等も含めて、新たな段階にステップに移ることができるということで大いに向こうにとってもメリットある話なんですね、貿易全体にとって」1)などと、査察受け入れを渋る米側を説得してきた。 外交交渉でこんな言い方をすれば、相手方、つまり米側は、査察が終われば日本が米国が常々要求している輸入条件の早期緩和に動くことを約束したと受け止めるのも当然だ。米側の輸入条件早期緩和要求は、ますます強まるだろう。

 1)松岡農林水産大臣記者会見概要07年4月20日)

 米国は、OIE科学委員会が米国のBSEリスクステータスを「管理されたリスク」と認めたことから2)、すべての月齢の牛やその製品の輸入を認めない貿易相手国の米国産牛肉輸入規制は科学的根拠がないという従来からの主張をますます強めている。ただし、OIE科学委員会の決定が”科学的”だなどとは決して言えない3)。近年(米国におけるBSE発生以来)の決定には、”科学”というよりも、米国の政治経済的利害が大きく反映しているように見える。その”科学性”など誰も信じていないことは、2月7日に行われた農水省の「OIE/BSEコード改正に関する専門家会合」でもはっきりした4)

 2)USDA-APHIS:STATEMENT BY DR. RON DEHAVEN REGARDING OIE RISK RECOMMENDATION,07.3.9
 3)
OIE科学委員会のBSEステータス案 現実のBSEリスクとは無関係,07.3.24
 4)
OIE/BSEコード改正に関する専門家会合議事録[PDF]

 米国における最初のBSE発生を受けてのスイス・米国・英国・ニュージーランドの5人の専門家からなる国際専門家チームの報告は、「BSE病源体が97年の飼料禁止に先立ち既に反芻動物飼料に含まれて流通していたことを示唆する疫学的証拠、及び北米の牛・飼料産業の統合を考慮すると、人間食料と動物飼料からすべての特定危険部位(SRM)を排除することが強く考慮されるべきである。この勧告は、BSEの国際的勧告の現在の趨勢に沿うものである」と述べた5)

 この勧告さえ未だに実施せず、もはや永久に実施をするつもりもなくしてしまったような6)米国を「管理されたリスク」国とすることがなぜ”科学的”なのか。交叉汚染のリスクを避けられなかったEUの経験を無視、BSE拡散防止には反芻動物から反芻動物への”フィードバン”で十分とする現在のOIEコードを認めたとしてさえ、これは”非科学的”というほかない。

 5)米国BSE措置に関する国際専門家調査報告発表―肉骨粉全面禁止等を勧告,04.2.5
 6)米FDA 死亡牛の脳・脊髄の飼料利用禁止案を撤回へ 経済コストが高すぎる,06.9.13

 米国の言い分を支える唯一の”科学的”根拠は、一次的な拡大サーベイランスを含むBSEサーベイランスの結果だろうが7)、それさえ当にならないことは、米農務省自身の監査局が指摘してきたことだ8)。OIEのサーベイランス基準によると、こんなサーベイランスでも十分に”科学的”ということになってしまう。

 7)米農務省 狂牛病発生率は極度に低い サーベイランスのデータの分析で結論,06.4.29
 8)米農務省BSE対策監査報告 米国のサーベイランスによるBSE発生率推計は信頼できない,06.2.4

 日本は、OIEの決定の”科学性”に深刻な疑問を突きつけた専門家会合の結果を受け、まずは5月のOIE総会で、米国を”管理されたリスク”国とするなどの提案をぶっ潰すことにこそ全力を上げるべきだろう。