米国人道協会 ダウナーカウと畜を促す”抜け穴”でUSDAを告訴

農業情報研究所(WAPIC)

08.2.28

 ホールマーク/ウエストランド社の動物虐待とダウナーカウ食肉処理の実態を暴いた米国人道協会(HSUS)が2月27日、ダウナーカウのと畜を促すような規制の抜け穴を作り出したと、米国農務省(USDA)をワシントン連邦栽培所に提訴した。

 The Humane Society of the United States Sues to Keep Sick and Injured Cows Out of Food Supply,HSUS,08.2.27
  http://www.hsus.org/press_and_publications/press_releases/hsus_files_suit_against_usda_022708.html

  2003年末の初の狂牛病(BSE)発生確認を受け、USDAは、2004年初め、自力で起立・歩行ができない牛(ダウナーカウ)の食料向けと畜を禁止した。これはBSEの典型的症候の一つだからである。ところが、これによって多大の経済的損害を蒙ることになった食肉業界は、生前検査で一旦合格した牛がその後に怪我などでダウナーとなるケースが多くあり、この場合には病気のリスクはないと、このような牛のと畜を許すように、強力なロビー活動を展開した。その結果、USDAは2007年7月、このような場合には獣医の再検査をパスすれば、と畜が許されるようにルールを改変した(米国食品安全検査局 ダウナー牛の人間消費禁止措置に例外を提案,07.7.13)。

 ところが、HSUSによると、これが、不健康な牛をと畜に送るように食肉産業を刺激する”抜け穴”を作り出しているというのである。産業は、ホールマーク/ウエストランド社内で撮ったビデオが示すように、立てない牛をフォークリフトや電気棒で無理矢理立たせようなやり方にまで走る(米国食肉処理の現場、時給8ドルで雇われ、シャツの下のピンホールカメラで撮影,08.2.21)。それで獣医の再検査を通れば儲けものということだ。ともあれ、ホールマーク/ウエストランド社などの企業が、緩んだ検査を当てに虚弱な牛の購入を増やしていることは間違いない。 

 USDAは、ホールマーク/ウエストランド社の例はそこに限られた問題で、米国の食品安全の一般的脅威にはならないと主張してきた。しかし、HSUSが言うように、これはルール緩和がもたらした必然の結果だとするれば、食肉処理産業全体の構造的問題とも考えられる。ルール緩和以前でさえ、生前検査は杜撰だったことと考え合わせると、それは一層確かさを増す。

 2006年のUSDA監査局(OIG)監査報告*は、9ヵ月の間に12のと畜場を調査したが、全部で29頭の歩けない牛がと畜された、そのうち20頭は怪我の証拠はなく、歩けない理由は不明だったと述べている。全面禁止下でさえ、ダウナーカウと畜のルール違反が横行していた。

 この監査報告によると、生前検査体制は抜け穴だらけだった。USDAは1995年以来、簡易な代替検査を導入、伝統的な静止状態と運動している状態で検査されるのは5-10%の牛にすぎず、残り90-95%は、一時囲い場で静止状態での検査しか受けていなかった。こういう代替検査は、フィードロットなどから来る若い牛をと畜する施設に限られるはずだが、30ヵ月以上の牛を受け入れる施設でも使われていることが露見した。

 それだけではない。食品安全検査局(FSIS)自身、生前検査がなしでと畜される牛さえ無視できない数に上ることを明らかにした。03年10月10日から05年5月30日の間に、代替生前検査を利用する33の施設で277頭がいかなる生前検査を受けることもなくと畜され、伝統的検査方法を使う6施設でも、42頭が同様にと畜されたと報告している。

 こうした杜撰な検査がどこまで改善されたのか。これに関する報告はない。

 *http://www.usda.gov/oig/webdocs/50601-10-KC.pdf

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