米農務長官 ダウナーカウ完全禁止を拒否 輸入条件以前の問題に無頓着な日本

農業情報研究所(WAPIC)

08.3.3

  シェーファー米農務長官が2月28日の上院歳出小委員会の聴聞で、ハーブ・コール小委員長によるダウナーカウの食用と畜の完全禁止・食肉加工施設の規則違反に対する罰則の強化・加工施設内での24時間監視カメラの設置の要請をことごとく拒絶した。代わりに、と畜場のランダムな検査を増やす、連邦学校ランチプログラムのための肉を加工する2ダースほどの施設の予告なしの監査の頻度を増すなどの暫定措置を発表した[だけ]という。

 USDA Rejects 'Downer' Cow Ban:  Agriculture Secretary Finds Existing Meat-Processing Rules Adequate,The Washinton Post,08.2.29
  http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/02/28/AR2008022804117.html

 Agriculture Dept. Vows to Improve Animal Welfare,The New York Times,08.2.29
 http://www.nytimes.com/2008/02/29/business/29food.html?ref=business

  この聴聞会は、言うまでもなく、米国人道協会が撮影したビデオで露見したホールマーク/ウエストランド社の動物虐待・ダウナーカウ食用と畜→米国史上最大の牛肉リコール事件(米国で史上最大の牛肉製品リコール ダウナーカウと畜のBSE規制違反)を受けて開かれたものだ。

 コール小委員長は、「ビデオはアメリカの食肉検査システムのまったく容認できない欠陥を暴露した。ホールマーク/ウエストランドの工場には5人の検査官がいたにもかかわらず、目に余る違反が何回も起きていた。・・・一層堅固なシステムが必要と思う」と述べた。

 しかし、シェーファー長官は、「ダウナーカウが獣医により承認され、食料に入れることができるケースがある」、「これらの牛は病気ではない」と、ダウナーカウ全面禁止をやめ、獣医の再診により一定のダウナーカウ(病気でなく、怪我でたてなくなった牛)の食用と畜を認めた2007年7月のルール改訂を擁護した。

 しかし、人道協会が指摘したように(米国人道協会 ダウナーカウと畜を促す”抜け穴”でUSDAを告訴)、このようなルール変更が危険な”抜け穴”を作り出したことは間違いない。これにより、工場をこのような行為に誘う誘因ができた。全面禁止ならば、少なくとも多忙、あるいは無能、不正な検査官が見逃すケースも減るだろう。

 小委員会宛の書面の証言で、動物福祉と動物科学の専門家であるテンプル・グランディン・コロラド州立大学教授は、検査官は一層の訓練が必要、「ある者は厳格すぎる、ある者は筋が通らず、ある者は正しく、ある者はまったく手ぬるい(怠慢、lax)」と書いたという。

 人道協会会長も、狂牛病と闘う”曖昧でない”政策が取られねば、今後も多くの危機、リコールが起きるだろうと述べた。手間がかかり、獣医の恣意的判定の余地が残る”曖昧な”システムでは、「まったく容認できない欠陥」を埋めることはできそうにない。


 わが国では、20ヵ月齢以下の牛由来であること等々の米国産牛肉輸入条件の違反には敏感だ。しかし、生前検査の不備というこうした輸入条件以前の問題には、何故こうも無頓着などだろう。

 国際獣疫事務局(OIE)のBSEコードは、無条件(輸出国のBSEリスクステータスにかかわらず、輸入国はいかなる輸入条件も要求してはならない)貿易物品である30ヵ月齢以下の牛からの脱骨骨格筋肉も、この牛は生前・死後の検査に合格したものでなければならないとしている。米国では、この生前検査が極めて杜撰であることから大騒動が始まっている。しかし、日本は静かなものだ。

 2月29日、農水省は、またも輸入条件に反する事例の発生を発表した(米国産牛肉(もも肉)の混載事例について)。しかし、ダウナーカウと畜問題に関しては押し黙ったままだ。マスコミも、米国主要メディアが大きく取り上げた議会聴聞会のやり取りに、一言たりとも触れない。

 関連情報
 カナダで新たなBSE 中国餃子で大騒ぎ、へたり牛肉には知らん顔の食品安全意識とは,08.2.27
 カリフォルニア州議員 と畜場にビデオカメラ設置の提案 牛肉への信頼回復のため,08.2.22
 米国食肉処理の現場、時給8ドルで雇われ、シャツの下のピンホールカメラで撮影,08.2.21