WTO農業交渉、輸出補助問題が再浮上?EUフィシュラー委員、米加の輸出補助解体を迫る

農業情報研究所(WAPIC)

04.6.16

 WTO農業交渉は補助金問題での妥協が見え、最後の難関は市場アクセス(関税引き下げ)の問題と観測されてきた。だが、輸出補助の問題が再び大きな障害として浮上してきたように見える。

 EUのフィシュラー農業担当委員が15日、カナダでの会議で、他の国がEUに追随するなら行き詰まった交渉の7月中の打開は可能だと述べ、一定の移行期間の後に輸出補助金を全廃すると提案したEUに米加が追随するように強く迫った(WTO farm talks: “Breakthrough possible if others match EU,” says EU Farm Commissioner Franz Fischler,6.15)。彼は、カナダは小麦ボードの補助的要素に取り組む用意があると世界に発信しているが、「彼らは彼らがその輸出補助手段を完全に解体しようとは思わないと言う。米国も輸出信用について同じことを言う。・・・輸出補助金が最も貿易歪曲的な補助金で、同等な効果をもつ措置がそうでないと、我々は断じて言うことはできない。ボールは今や米国とカナダの側にある。立証責任は彼らにある、彼らのカネの色を示さねばならない」と演説した。

 例えば、輸出信用の貿易歪曲効果については、これをはっきり認めるOECDの研究もある()。欧州の研究は、輸出信用が途上国の借金に次ぐ借金の悪循環を招き、途上国経済に悪影響を与えていると確認している()。フィシュラー委員は、口先だけで一向に行動を示さない米加に苛立ち、この表明になったと見られる。EUと米国の間では、内々の交渉も進んでいないようだ。

 米国が輸出補助手段の解体を約束できる政治状況にないことははっきりしている。米国がそうするためには、最低限、途上国市場の大幅開放が必要である。だが、途上国が米国・ゼーリック通商代表の口車に乗せられ、米欧が詳細を後の交渉に譲るかぎり、7月中の大枠合意は可能とも考えられた。しかし、インド新政権は、ブラジルで開かれた国連貿易開発会議(UNCTAD)会合に臨むに当たり、WTO交渉でも国内小農民の生計と食糧安全保障の確保を最優先すると決めた。米国が望むような途上国市場の開放には応じないだろう。そのうえに、米欧の輸出補助金をめぐる対立がこうはっきりしては、7月合意は幻想に見えてくる。

 交渉は再び振り出しに戻るのだろうか。

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農業情報研究所(WAPIC)

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