EU-米国貿易投資協定 気候変動との闘いの手段も奪う恐れ グリーンピースが協定案最新バージョンを入手

農業情報研究所グローバリゼーション二国間 関係・地域協力ニュース2016年7月12日

 EU-米国貿易投資協定(TTIP)は気候変動との闘いや再生可能エネルギーの開発のための有効な手段をEUから奪い取ることになりそうだ。グリーピースが入手した協定案の最新バージョンは、環境、社会的保護・権利などの分野における直接的規制を排し、アメリカ的な間接的・経済的規制を採用すべしと示唆する文言を使っているという。

  草案は双方が「産業の自主規制を助長すべきである」と述べており、気候政策に関連するエネルギー効率の政策目標も「強制的手法よりも自主規制によってこそより迅速に、低コストで政策目標を達成できる」と言っている。

 エネルギーに関する決定は「リーズナブルで、透明で、エネルギーのタイプ間で非差別的な商業的ターム」でなされるべきであると述べる別のセクションもある。

 グル―ピースは5月にも250頁に上る漏出文書を発表しており、そこではEUの”予防原則”(*)も排除するとされていた。

  ルクセンブルグ選出の欧州議会議員(緑の党)・Claude Turmesは、「EUと米国のTTIP交渉は保健・消費者保護・環境に関するEUのルールをかわすための協同のフレームワークを作るのに利用されている」、「民主的に決定されたEUのルールは交渉で変えられるものではなく、(交渉を担当する)欧州委員会はヨーロッパの利益を守らねばならず、これをはっきりさせるべきだ」と言っているそうである。  

 Climate concerns around new leaked TTIP document,Deutsche Welle,16.7.11 

 直接規制をアメリカ並みに嫌うイギリスの離脱でEUの規制派が一層勢いづく可能性がある(あくまでも可能性である)。そうなれば、TTIP妥結は一層遠のくことになるだろう。

 関連ニュース:With TTIP talks stuttering, free trade is reaching its limits,Deutsche Welle,16.7.12

 *予防原則とは、ある物質または活動は「安全と証明されない限り(リスクが証明されなくても疑われる限り)禁止されるべきである」というEUが採用してきた原則である。これに対し、アメリカでは「リスクありと証明できない限り許される」という原則(科学的原則)が支配してきた。三つの例を上げておく。

 EU:新たな食品安全法が発効,02.2.23

 フランス:「予防原則」は法の一要素ー肉骨粉貯蔵倉庫移転を求める判決,02.2.25

 EU:欧州委員会、化学物質規制制度の抜本的改革を提案,03.5.8 

 TPPにおける衛生植物検疫措置(第7章)など、明らかに「科学的原則」に基づくが、すべてアメリカに倣えの日本ではヨーロッパで起きているような議論の盛り上がりようがない。