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欧州議会委員会、法的ルールでGMO・非GMOの共存確保を

農業情報研究所(WAPIC)

03.5.24

 5月22日、欧州議会の環境委員会が食品及び飼料に含まれるGMOについての報告を賛成31、反対21で採択した(European Parliament,Tougher labelling rules for GMOs,5.23)。採択された報告の柱は次の点にある。

 ・理論的にはGMOが含まれないが偶然の汚染が起きるかもしれない事故あるいは技術的に不可避な汚染の限界を、欧州議会と規則を「共同」決定する閣僚理事会が採択した0.9%から0.5%に引き下げること。主要食品メーカーや小売業者は0.1%を目指してしるが、欧州議会のEPP(ヨーロッパ人民党)−ED(ヨーロッパ民主党)グループと欧州委員会は、0.5%は遵守が不可能としている。7月の本会議でこれがすんなり通るとは予想されない。

 ・食品・飼料中の承認されていないGMOを、3年間、0.5%まで許すという閣僚理事会の立場を否認したこと。

 ・食品と農業におけるGM製品と非GM製品の「共存」を「法的」ルールによって確保すること。共存の問題は現在議論が進行中であり、5月26日−27日に開かれる農相理事会でも論議される。その際、欧州委員会は、4月24日に行なわれた共存に関する広範な関係者の会合の結果を報告するとともに、共存にかかわる”lignes directrices”(指導指針)に関する通信の準備状況を報告する予定である(European Commission:Préparation du Conseil Agriculture/Pêche de mai 2003,5.23)。議会環境委員会は、今までのところ欧州委員会が共存確保のための自主的指針を示唆していることに対して、ヨーロッパでGMOの商業規模の栽培が許されるときにはそれでは不十分で、追加立法が必要だという立場を明らかにしたものである。

 このように、環境委員会は、欧州委員会や閣僚理事会が提案したGMO規制を一層強化しようとしているわけであるが、委員会が同時に採択したGMOのトレーサビリティーに関する報告を提出したEPP−EDグループのアントニオ・トラカテリ議員は、昨年7月に欧州議会が新規則案を採択した際も僅差の票決であったこと、閣僚理事会が合意にいたる過程も困難を極めたこと、既に獲得した譲歩に鑑み、欧州議会議員が要求を和らげるように要請している。

 7月に予定されている本会議で環境委員会案がそのまま通る保証はないが、採択されれば、4年以上に及び、米国が早期解除を求めてWTOに提訴したGMOの新たな承認の「モラトリアム」の解除の前提条件とされてきた新たなGMO表示・トレーサビリティー規則が成立することになる。たたし、その内容第では、閣僚理事会との再調整が必要となるかもしれない。また、新規則の成立がただちに「モラトリアム」解除につながるかどうかも未だ不透明である。そのためには「共存」問題での妥協も必要と考えられるからである。恐らくは、GMOの賛成者にとっても、反対者にとっても、完全に満足できる結果を期待することはできないだろう。

 なお、欧州委員会の新規則案についてはEU:遺伝子組み換え体に関する新規則案(02.7.5)、欧州議会第一読会の決定についてはEU:欧州議会、GMO新規則を採択(02.7.5)、閣僚理事会の決定についてはEU農相理事会、GMO新表示規則に合意(02.11.29A)及びEU:環境相理事会、GMOトレーサビリティ新規則で政治的合意(02.12.11)を参照されたい。

関連情報
Friends of the Earth Europe:EUROPEAN ENVIRONMENT COMMITTEE VOTES FOR STRONGER GMO LAWS,5.23
EU、GMO種子・製品のモラトリアム解除を準備(05.5)