GMワタ特許料引き下げ命令をモンサントが拒否 多国籍企業のくびきに嵌るインド農民

農業情報研究所(WAPIC)

06.5.12

 インドの独占・制限的取引慣行委員会(MRTPC)が11日、モンサントに対して、遺伝子組み換え(GM)Btワタ450g当たり900ルピーの特許料を徴収してはならないとする暫定命令を出した。委員会は、中国などの近隣諸国で会社が徴収している特許料を考慮する妥当な特許料を定めるように命じたという。

 Monsanto restrained from charging Rs 900 for Bt cotton seeds,Hindu Business,5.12

 この命令は、モンサントの価格設定に反対する1月のアンドラ・プラデーシュ州の訴えを受けたもので、同州政府によれば、会社は米国でよりもはるかに高い450g当たり1200ルピーの特許料を徴収していた。モンサントは、2004年に特許料を1200ルピーと定めたインドのジョイント・ベンチャー、Mahyco-Monsantoを通してBtワタ種子を販売している。2005年にはこれが1250ルピーに引き上げられ、今シーズンは900ルピーに引き下げられたという。

 この命令に対し、モンサントは、この暫定判決は委員会の権限の範囲を超えているとして、近々控訴すると発表した。命令に従うつもりはないらしい。インド農民は、当分の間、この巨大多国籍企業のくびきから逃れられそうもない。それどころか、もっとひどい罠にはまり込むかもしれない。米国・インド両政府が、インドの”第二の緑の革命”を達成すると称して、このようなビジネスの後押しに乗り出したからだ。

 今年3月、ブッシュ米大統領の訪印に際し、インドと米国は民生原子力協力を始めとする広範な協力協定に調印した。その中の一つが農業分野の協力の拡大で、これには二国間農業貿易の促進、ドーハ・ラウンドの2006年末完成に向けての協力に加え、3年間の財政支出約束を伴う農業に関する知識活用・創出イニシアティブ(Knowledge Initiative on AgricultureI、KIE)の立ち上げが含まれる。これは、バイテク分野を含む農業教育・共同研究・能力建設を支援するために、大学・技術研究機関・民間企業が手を繋ごうとするものだ。

 このとき結ばれた諸協定は、既に昨年7月のシン首相の訪米に際して大筋合意されていたものであり、KIEについては、昨年12月に両国代表者で構成された委員会が今年2月、”環境的に持続可能で、市場志向的な農業に基づく”エバーグリーン革命”なるものを達成するための3ヵ年計画を採択していた。訪印したブッシュ大統領は、これが「作物を栽培し・それが市場を獲得するためのよりよい方法を開発し、第二の緑の革命につながるだろう」と持ち上げた。

 The White House:President Discusses Strong U.S.-India Partnership in New Delhi, India(06.3.3)
 http://www.whitehouse.gov/news/releases/2006/03/20060303-5.html

 だが、この委員会を構成する代表者にはモンサントやウォルマートも含まれる。インド遺伝子キャンペーン(Gene Campaign)のディレクターであるスーマン・サハイ、この協定は、インド農民のパワーを奪い取り、豊かな遺伝的遺産を危機にさらすと厳しく批判している。

 Suman Sahai,Sowing trouble: India's 'second green revolution',SciDev.net,06.5.9
 http://www.scidev.net/content/opinions/eng/sowing-trouble-indias-second-green-revolution.cfm

 彼によれば、第一次緑の革命と、ブッシュ大統領の言う”第二の緑の革命”とは根本的に異なる。1970年代の緑の革命は公的資金で食料生産の改善を促した。しかし、”第二の緑の革命”は、農業バイテクと民間企業の利益を促進するための米印共同イニシアティブ だ。最初の緑の革命は人民に属する技術を生み出した。改良作物品種は、公衆の必要ー食料増産ーを満たし、誰もがアクセスできた公共財を創出するために、公的資金で育成された。いかなる知的所有権、あるいは特許もなかった。誰かが緑の革命を”所有した”としても、それは農民だった。土壌の塩分集積や大量の水が必要などの欠陥があったとしても、それは農民の必要性に取り組んだもので、インドの食料生産は増加を始めた。

 それとは対照的に、第二の緑の革命は私的に所有される技術ー遺伝子組み換え(GM)植物に焦点が当てられる。この分野のすべての研究は、6つの多国籍企業ーBASFプラントサイエンス、バイエルクロップサイエンス、ダウ、デュポン、モンサント、シンジェンターが支配しており、その製品と研究方法は特許の足かせをはめられている。その技術は、大変なコストを払ってのみアクセスできる私有財だ。

 緑の革命のときには、科学者は高収量品種を育成し、広く配布するための十分に高品質な種子を生産するために農民と協同した。GM技術は、過去20年、飢餓や栄養の改善に直接に役立つ作物品種を生産するのに失敗してきた。インドの緑の革命は、数年の間に国で初めての矮性高収量小麦品種を生産した。それに高収量イネが続き、インドは、以来、穀物の余剰在庫を維持することができた。 それは開放的で、透明で、協力的な努力だった。しかし、新たな革命は、インドの政治家も科学界も詳細を知らないほどに機密が保たれている。委員会のメンバーであるウォルマートとモンサントの内部情報源が示唆するところでは、両社はインドの農業小売と農業貿易に参入するためにその地位を利用している。現在、農民は政府が設置した特別の市場で生産物を販売できるが、ウォルマートのような巨大小売企業ははるかに安く食品を販売でき、農民の生計を脅かす。

 それだけではない。米印協定で分かっていることは、それが農業バイテクの開発、インドのジーンバンクの生物資源をアセスすること、インドの知的所有権制度を議論することに焦点を当てるということだ。これらすべてが米国の決定的利害にかかわる。協同研究の中心的対象となるGM作物(及び魚、家畜)を開発するために、関係する米国のバイオサイエンス企業はインドのジーンバンク、研究施設と大学のコレクションの豊かな生物多様性へのアクセスを望んでいる。このような企業は、高品質の国の品種がGM品種の成功のために決定的に重要であることを知っている。モンサントのインド子会社のBtワタの失敗は、これら企業にこの重要な教訓をもたらした。

 しかし、インドの多くの人々は、その遺伝資源へのアクセスを米国に与えることには心穏やかではない。例えば、米国が批准していない生物多様性条約(CBD)の要件が満たされるだろうか。これが満たされなければ、インドは米国企業にその遺伝資源へのアクセスを許すことはできない。そうでなければ、インド自身がCBDの約束と国の生物多様性法に違反することになる。

 インドの知的所有権制度についても、委員会は、研究計画が開発した製品に対する権利を議論してきた。多くの人々は、これがインドの植物品種・農民の権利保護法ー農民に特別の権利を与える世界で唯一の法ーを米国の圧力の脅威に曝すと恐れている。モンサントなどの多国籍企業の利益に沿い、米国はインドの知的所有権法を改変、種子と遺伝子の特許を導入し・農民の権利を保護する条項を薄めるように圧力をかけてきた。

 インドのジーンバンクへの物理的アクセスと種子特許を許す新たな知的所有権法の結合することで、インドの遺伝的豊かさが米国の手に引き渡されることになる。これはインドの食料安全保障と自給への厳しい打撃となる。

 これがすべてではない。米国は、米国農産物のインドへの輸入制限を取り払うようにも要求してきた。これは、GM作物・食品のインドへの輸出の権利を求めていることを意味する。 彼は、インドは、安全性をめぐる疑問と無益性のために世界の多くの地域が拒否してきた製品のダンピングの場となってはならないと警告する。

 にもかかわらず、インドのGM製品輸入規制はまったく機能していない。インドには1989年12月に発行した輸入前承認のルールがあるが、GM製品の輸入と販売の許可申請は一件もないという。ところが、食用油の不足を補うために、大量のトウモロコシや大豆が輸入されてきたし、ワタの輸入も続いている。その大部分は、大量のGM作物を作り、GM製品と非GM製品の分別がされていない米国、ブラジル、アルゼンチンから輸入されている。これら輸入品の多くの部分がGM製品であったし、GM製品であることは公然の秘密という。

 Policy on import of genetically modified food flawed,Hindu Business,5.12

 サハイ氏の警告にもかかわらず、インドの農民と消費者は、多国籍企業と政府が仕掛ける罠から抜け出す術を持たない。

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