各章の説明

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本書は,主にオペアンプのスペック項目で"章"を切り分けています。各章は,概ね次の構成を取っています。

この構成によって,スペックの意味を把握し,スペックの測定ができ,スペックの数値が活用できることを目標しています。本書で挙げるスペックの基準は,こちらからご覧いただけます。

本書では,上記の項目のうち「スペック項目の活用」に多くのページを割いています。ここでは,スペックをアプリケーション回路設計に応用して,設計した回路の性能や誤差を数値化することが主なテーマです。性能や誤差が数値化できることは,「ICメーカーの保証によって,回路の性能が保証できる」ことを意味します。

最終章では,スペックを横断的に活用することを目的に,設計課題を挙げて,参照すべき章の項目番号を設計手順に従って指定しています。このことで,全体的な関連付けがイメージできます。

本書では,正しくスペックの測定ができるように「測定器の製作」も含めています。測定器に使用した部品は,入手性に優れ,しかも長期間流通した実績のある部品を選んで使っています。オペアンプ・ユーザー側で測定器が準備できれば,直流・交流・雑音などのスペック項目の測定ができます。またスペック項目の測定を含めて,その数値を理解し活用することは,高品質・高性能・低コストの設計につながります。

このような本書の各章を説明します。


第1章 イントロダクション

この章では,本書を読み進むにあたっての準備をします。直流領域の動作を中心に,「オペアンプ回路の基本動作」や,「スペックの考え方」や,「基礎的な用語」などを解説します。

反転・非反転増幅器の基本動作の説明を絡めながら,(直流)伝達関数の導出過程を丁寧に解説します。この伝達関数は,入力バイアス電流を含め直流スペック項目に対応した,反転・非反転増幅器の実用的な計算式です。
また,「スペック項目や測定方法は,どのように選ばれているのか?」を実験データを基に解説します。
他にも,測定の基準電位となるゼロボルトの定義や,電圧帰還率や,ノイズゲインなどを解説します。

独自情報数3
使える計算式数3
実験データ数1
本章のページ数11
小見出しの数8
図の数3

第2章 Nullループの基礎

「Nullループ」とは,図2-1に示す回路であり,主にオペアンプの直流スペック測定に用いられる回路です。
本書ではオペアンプの静特性測定に,このNullループを採用しています。回路は一見複雑に見えますが,ポイントを押さえて考えれば,「様々な動作条件を簡単に作り出せる,応用範囲の広い測定回路」であることがわかります。この章では,その動作原理と測定原理を解説しています。


図2-1 Nullループ
画像が表示されない場合は,こちらをクリック(.JPG)してください。

図の"DUT"が被測定オペアンプを表し,"Null"は「Nullアンプ」や「補助増幅器」と呼ばれ,被測定オペアンプの特性に影響を与えることなく高精度測定に貢献する増幅器です。

Nullループの長所として

  • バラエティーに富んだ測定アプリケーションで,高精度な測定ができる
  • 国際標準規格などでも採用されている
  • DUT起因の測定誤差を気にしなくて済む
ことが挙げられます。これらの背景から,本書でもNullループを採用しています。

図2-1は原理図であり,実用にするには工夫が必要です。そうした実用回路は,12章「Nullループの製作」で示しています。

独自情報数1
使える計算式数0
実験データ数0
本章のページ数4
小見出しの数4
図の数4

第3章 入力オフセット電圧

入力オフセット電圧の「意味」「測定方法」,アプリケーション回路で発生する「誤差の計算方法」などを解説しています。
他にも,「入力オフセット電圧がスペックの基本である」ことや,「ICメーカー・品質保証面からの注意事項」「発生しやすい問題」「アプリケーション回路上での簡易測定方法」などについても解説しています。

本章では「入力オフセット電圧」という具体的な誤差要因を含めて,第1章で得た伝達関数で出力電圧を計算します。その計算結果と実測結果が,6・1/2桁のディジタルマルチメーターのほぼ最小桁まで正確に一致することを示します。

オペアンプ回路を理解したり,デバッグをする際に,オペアンプの各部の電圧を測定することは有益です。しかしその測定は,注意しなければ発振など不都合な現象が発生します。そうした際に有効なテクニックが,上述の「アプリケーション回路上での簡易測定方法」です。

独自情報数1
使える計算式数0
実験データ数1
本章のページ数7
小見出しの数12
図の数4

第4章 長期入力オフセット電圧ドリフト

長期入力オフセット電圧ドリフトの「意味」や,「経時ドリフトの計算方法」「応用に当たっての注意点」について解説しています。

独自情報数1
使える計算式数2
実験データ数0
本章のページ数3
小見出しの数4
図の数0

第5章 入力オフセット電圧・平均温度ドリフト

入力オフセット電圧・平均温度ドリフトの「意味」や,「計算方法」などを解説しています。

独自情報数1
使える計算式数1
実験データ数0
本章のページ数1
小見出しの数2
図の数0

第6章 オープンループ・ゲイン

オープンループ・ゲインの「意味」「測定方法」,アプリケーション回路で発生する「誤差の計算方法」などを解説しています。

オープンループ・ゲインは,例えば反転・非反転増幅器であれば,その増幅度の誤差要因として働きます。発生する誤差の計算式と,その導出過程を示して,検証実験で確認しています。

本書に載せた数値例(両電源オペアンプを使用)を,次に示します。
次表は,1+Rf/RS=+1007.3[V/V]の非反転増幅器に+9.975[mV]を入力したときの出力電圧です。

実測結果スペックを含めた計算1+Rf/RSだけで計算
+9.929[V]+9.922[V]+10.048[V]

「実測結果」と「スペックを含めた計算」は,僅か7[mV]の差です。一方「実測結果」と「1+Rf/RSだけで計算」は,119[mV]もの差が生じています。 使用した測定機材で,この7[mV]は測定の限界付近です。このように,測定限界を考え合わせるほどの高精度な計算結果が期待できます。

他にも「興味深い性質」の解説や,「精度の表現方法」なども紹介しています。
また,「オープンループ・ゲインのスイープ測定法」についても解説しています。スイープ測定では,動作条件が変化することでオペアンプの動特性が絡んできます。正しい測定を行うためには,測定のパラメーターを適切に選択する必要があります。このようなパラメーター設定の方法についても解説しています。

独自情報数5
使える計算式数5
実験データ数7
本章のページ数21
小見出しの数13
図の数9

第7章 同相電圧除去比(CMRR)

CMRRの「意味」「測定方法」,アプリケーション回路で発生する「誤差の計算方法」などを解説しています。

誤差要因としてCMRRを含めた反転・非反転増幅器の出力電圧を計算します。その計算結果と実測結果を比較して,計算どおりであることをことを示します。計算方法がオペアンプの電源によって両電源と単一電源では多少違いますので,それら両者について行います。

本書に載せた数値例(単一電源オペアンプを使用)を,次に示します。
次表は,1+Rf/RS=+10.00122[V/V]の非反転増幅器で,入力電圧=+0.100036[V]での出力電圧です。

実測結果スペックを含めた計算1+Rf/RSだけで計算
+1.00109[V]+1.00113[V]+1.00048[V]

「実測結果」と「スペックを含めた計算」は,僅か40[μV]の差です。一方「実測結果」と「1+Rf/RSだけで計算」は,610[μV]もの差が生じています。この実験はCMRRだけでなく,複数のスペック項目が影響しています。また使用した測定機材で,この40[μV]は測定の限界付近です。このように,測定限界を考え合わせるほどの高精度な計算結果が期待できます。

計算以外にも,同相入力電圧に対するオペアンプの非線形動作について説明しています。

独自情報数1
使える計算式数3
実験データ数6
本章のページ数13
小見出しの数10
図の数7

第8章 電源電圧変動除去比(PSRR)

PSRRの「意味」「測定方法」,アプリケーション回路で発生する「誤差の計算方法」などを解説しています。

アプリケーション回路で電源電圧が変化するとき,発生する誤差電圧をPSRRだけで計算することはできません。関係する誤差要因を全て含めて,反転・非反転増幅器の出力電圧を計算します。計算方法がオペアンプの電源によって両電源と単一電源では多少違いますので,それら両者について行います。

本書に載せた数値例(両電源オペアンプを使用)を,次に示します。
次表は,-Rf/RS=-9.00122[V/V]の反転増幅器で,PSRRの影響を受けるように(他に入力オフセット電圧, オープンループ・ゲイン, CMRR, 入力バイス電流, 入力オフセット電流を含みます)電源電圧を変更し,入力電圧=+0.111589[V]での出力電圧です。

実測結果スペックを含めた計算-Rf/RSだけで計算
-1.00369[V]-1.00369[V]-1.00444[V]

「実測結果」と「スペックを含めた計算」は,一致しています。一方「実測結果」と「-Rf/RSだけで計算」は,750[μV]もの差が生じています。この計算に含めたスペックはPSRRだけでなく,複数のスペック項目が影響しています。このように高精度な計算が期待できます。

電源電圧変化に対する誤差電圧では,計算どおりにならない経験をした人も多いでしょう。本書ではそのメカニズムも解説し,どうすれば計算に乗るのか?を示し,もちろん「実測結果と計算結果が一致する」ことも示します。

スペック項目としての「PSRR」の測定方法では,「電源電圧の変化のさせ方」の合理的な根拠を示し,正しい測定ができるように解説しています。正しい測定方法を理解すれば,正しい応用計算ができます。

独自情報数4
使える計算式数6
実験データ数11
本章のページ数18
小見出しの数11
図の数14

第9章 入力バイアス電流

入力バイアス電流の「意味」「測定方法」,アプリケーション回路で発生する「誤差の計算方法」などを解説しています。

スペック項目としての「入力バイアス電流」の定義や,設計にあたって注意すべき事柄について解説します。
また入力バイアス電流起因での誤差や,それを低減する入力バイアス電流補償回路の動作原理を数値計算を含めて解説します。
更に実際のオペアンプを使い,反転・非反転増幅器の入力バイアス電流を含めた出力誤差電圧を計算し,実測結果と一致することを示します。同様に入力バイアス電流補償回路が計算どおりに機能することも,実測結果との比較で示します。

入力バイアス電流測定や,入力バイアス電流が問題となるアプリケーションでは,高インピーダンスであることから雑音源との結合が問題になります。このような雑音源との結合のメカニズムと,対策などを解説しています。

微小入力バイアス電流測定や,微小バイアス電流が問題となるようなアプリケーションでは,絶縁体の汚染などに伴う漏れ電流が問題になります。こうした問題の対策方法も解説しています。

独自情報数5
使える計算式数5
実験データ数7
本章のページ数20
小見出しの数16
図の数8

第10章 入力オフセット電流

入力オフセット電流の「意味」や,関連する事柄について解説します。入力オフセット電流は入力バイアス電流とセットで考える必要が多いことから,多くは入力バイアス電流の章に含めています。

入力オフセット電流測定では,反転・非反転入力端子間の入力バイアス電流測定結果を減算するだけでは十分な精度が確保できない場合があります。その理由や,対策を解説します。

独自情報数0
使える計算式数3
実験データ数0
本章のページ数3
小見出しの数7
図の数0

第11章 入力抵抗

入力抵抗の「意味」「測定方法」,アプリケーション回路で発生する「誤差の計算方法」などを解説します。

入力抵抗は情報の少ないスペック項目ですが,本書では詳しく解説しています。
入力抵抗は,差動入力抵抗と同相入力抵抗とに分けることができます。多くのデータシートでは,単に「入力抵抗」とだけ記されています。この場合に,どう考えればよいのか?など,入力抵抗の詳細やデータシート上の入力抵抗を解説し,誤差要因としての考え方やその計算式や導出過程を示します。また検証実験結果を示して,計算式が正しいことを示します。
更に,入力抵抗の交流領域での振舞いについても解説します。

独自情報数8
使える計算式数5
実験データ数6
本章のページ数18
小見出しの数13
図の数8

第12章 Nullループの製作

本書の直流スペック測定で用いたNullループ「回路図」「使用する部品」「実装方法」など,詳細な情報を示します。また,製作したNullループを用いた基本測定の手順も示します。
ここに示すNullループは,GB積が1[MHz]以下の低速高精度オペアンプから100[MHz]を超える高速オペアンプまで,様々なオペアンプに無調整で発振することなく対応できます。

製作するNullループの性能は,次表の通りです:

差動入力電圧の測定範囲5[μV]〜120[mV]
入力バイアス電流の測定範囲5[pA]〜12[μA]
Nullループのゲイン100, 1000, 10000の切り替え
DUT出力電圧調整範囲±20[V]以上
同相入力電圧の調整範囲±10[V]
DUT用電源電圧の調整範囲0〜±25[V](正負独立)
DUT用電源の駆動能力±50[mA]以上
スイープ速度2.0, 0.5, 0.1[sec/V]とOFF
スイープ出力電圧範囲±10[V]以上
内蔵電圧源・出力範囲±10[V]以上
内蔵電圧源・駆動能力±50[mA]以上
主電源AC100[V]

本書では,このNullループで次の8項目を測定しています。

  • 入力オフセット電圧
  • オープンループ・ゲイン(スイープ測定を含む)
  • CMRR(スイープ測定を含む)
  • PSRR(スイープ測定を含む)
  • 入力バイアス電流
  • 入力オフセット電流
  • 入力抵抗(スイープ測定を含む)
  • 直流出力抵抗(スイープ測定を含む)

Nullループは,これら特性を様々な動作条件で測定することができます。測定で得た数値を本書の計算式に代入すれば,発生する誤差などが正確に算出できます。

ここで製作するNullループは,「一般用」などとして販売されているオペアンプ向けに設計したもので,例えば「入力バイアス電流測定範囲を微小化する」などの改造は十分可能です。
上記性能のうち,差動入力電圧や入力バイアス電流の下限値(小さい方の数値)は,実用的な測定ができる範囲の参考値です。CMRRや入力抵抗のように"変化"を測定する場合は,表に挙げた下限値よりも更に小さな値を測定できます。

本文では,回路の解説や,部品の選定方法や配置などを詳しく解説しています。使用している部品は,単品でも入手性が良く,しかも長期間流通実績のある製品を選んでいます。また,プリント配線板の利用が難しい場合に比較的性能の良い基板の製作方法など,製作する上でのノウハウも含めています。

このNullループで測定を行うには,Nullループ以外に電圧計や,スイープ測定では発振器は内蔵していますがオシロスコープまたはXYモニターが必要です。
入力オフセット電圧の測定風景は,こちらをクリックしてください。
オープンループ・ゲインのスイープ測定風景は,こちらをクリックしてください。

独自情報数6
使える計算式数0
実験データ数0
本章のページ数32
小見出しの数24
図の数9

第13章 電源電流

電源電流の「意味」「測定方法」を解説します。
また,電源デカップリングの重要性を実験を通して説明します。

独自情報数3
使える計算式数0
実験データ数2
本章のページ数4
小見出しの数3
図の数3

第14章 No AC Feedback回路の基礎

No AC Feedback回路とは,図14-1の交流スペック測定回路を指します。以降の章の説明が理解できるように,基本的な測定方法などを解説します。詳細解説は,第20章で行います。


図14-1 No AC Feedback回路
画像が表示されない場合は,こちらをクリック(.JPG)してください。

「No AC Feedback回路」という用語は,既存の用語が見当たらなかったために,その動作から私が作ったものです。回路の抵抗値はRf≫Rsです。直流的にはCの存在で,ユニティーゲイン・アンプ(G=+1)として動作します。

独自情報数1
使える計算式数0
実験データ数0
本章のページ数2
小見出しの数2
図の数2

第15章 スルーレート

スルーレートの「意味」「測定方法」や,アプリケーション回路で発生する「誤差の計算方法」などを解説します。

本書では,"SRv"という動特性計算に役立つパラメーターを定義します。「SRv」という用語は,既存の用語が見当たらないことから,私が作ったものです。SRvは,興味深いパラメーターです。SRvを使った応用計算や,その計算結果が実測結果と一致することを示します。

スルーレート測定では,それに用いる発振器やオシロスコープへの要求事項があります。こうした要求事項を含めて,正しい測定ができるように解説します。

独自情報数7
使える計算式数6
実験データ数5
本章のページ数22
小見出しの数19
図の数13

第16章 GB積

GB積の「意味」「測定方法」や,アプリケーション回路で発生する「誤差の計算方法」などを解説します。

GB積は,交流領域のオープンループ・ゲインを表すスペックです。直流のオープンループ・ゲインと同様に,増幅器の増幅度に影響を与えるパラメーターです。しかし増幅度の誤差計算に,直流と同じ計算式は使えません。本書では,交流領域の計算式とその導出過程を示し,実測結果と一致することを示します。

その計算式を用いた一例を図16-1に示します。これは,4580のデータシートにも示してあるAv=40[dB](=100倍)の電圧増幅器の周波数特性です。4580は複数のICメーカーから供給されており,各社とも同様の実測データを載せています。図16-1の計算値とメーカーの実測データを比較すると,双方とも100[kHz]付近で電圧増幅度が-2[dB]を迎えています。位相特性も,計算結果とおおむね合っています。


図16-1 4580の周波数特性の計算例

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図16-1は,データシートのスペックに記載してある標準値を,40[dB]の電圧増幅器として計算したものです。高域で計算値は実測値との差が大きくなりますが,この領域はデータシートのスペックだけでは計算できません。しかし,この領域でも計算に乗る方法があります。この方法は,第17章ユニティーゲインで扱います。
40[dB]の電圧増幅器に限って言えば,-3[dB](電圧増幅度が直流の0.707倍)のような減衰を受ける領域で高精度を求めることは無いでしょう。ですから,大抵のアプリケーションでは図16-1で十分です。

図16-1では,メーカーのデータに合わせて電圧増幅度をデシベルで表していますが,計算結果は[V/V]です。例えば,0.1[%]の誤差が発生する周波数も逆算できます。図16-1は,帰還回路は抵抗器のみで構成したものですが,本書では帰還回路にコンデンサを持つ回路でも,同様に計算式を示しています。

これ以外のGB積を利用した応用計算結果と実測結果は,こちらのGにも示しています。

このような交流領域における計算方法は,ほとんどの書籍で論じられていません。本書では,各計算式の導出過程を含めて丁寧に解説しています。オペアンプのアプリケーションは数多くありますが,これら導出過程を参考に,目的とするアプリケーション回路の交流領域における伝達関数を立てることもできるでしょう。

独自情報数7
使える計算式数16
実験データ数6
本章のページ数43
小見出しの数16
図の数17

第17章 ユニティーゲイン帯域幅

ユニティーゲイン帯域幅の意味測定方法や,アプリケーション回路で発生する誤差の計算方法などを解説しています。

ユニティーゲイン周波数(オープンループ・ゲインが1になる周波数)に近づくと一般的なスペック項目だけでは,アプリケーション回路の特性が計算どおりにならなくなります。一般的なオペアンプのスペック項目にはありませんが,計算に乗るような管理方法はあります。本章では,計算に乗らなくなるメカニズムを示して,それを解決する方法を紹介しています。
その一例としてこちらのGでは,ユニティーゲイン増幅器(ボルテージフォロア)が高域でピーキングを持つ特性の応用計算結果と実測結果がご覧いただけます。

ユニティーゲイン帯域幅の測定(ユニティーゲイン周波数を測定すること)では,ほかの測定にはない配慮が必要です。必要な配慮の根拠を示して,正しい測定ができるように解説しています。

独自情報数5
使える計算式数1
実験データ数1
本章のページ数8
小見出しの数7
図の数4

第18章 出力抵抗

出力抵抗の意味測定方法や,アプリケーション回路で発生する誤差の計算方法などを解説しています。

出力抵抗には,「交流出力抵抗」と「直流出力抵抗」とがあり,またオペアンプ回路の状態によって,「オープン・ループ出力抵抗」と「クローズド・ループ出力抵抗」とがあります。これらの違いについて説明します。
また出力抵抗は,単純な理論展開により求めた計算結果は,実測結果と大きくかけ離れる場合があります。本章ではこのメカニズムを解説し,対策を示しています。この対策によって,計算結果と実測結果が一致します。

交流回路や直流回路では,負荷の変化によって出力電圧の振幅や交流であれば位相を含めて僅かですが変化します。こうした変化を数値計算で求めます。また,実際のオペアンプを使って負荷が変化したときのときの反転・非反転増幅器の出力電圧変化を計算し,実測結果と一致することを示します。

更に出力抵抗が存在することは,外部から出力端子へ流れ込む電流によって出力電圧に変化が生じます。直流であれば出力電圧変化が,交流であればリプル電圧の振幅と位相がそれぞれ計算できます。これらも実測結果と比較して,計算結果と一致することを示します。

これら計算式の応用例として,ヘッドフォン・アンプのような低インピーダンス駆動で発生する振幅特性や位相特性を数値計算で求めています。もちろん実測結果と比較して,計算結果と一致することを示します。

静電容量負荷は,交流出力抵抗との組み合わせで発振するなど,安定性に影響を与えます。この計算方法について示します。また静電容量負荷では,交流出力抵抗とは関係のない発振メカニズムが存在します。このメカニズムについて解説します。

出力抵抗の測定方法も,正確で・実用的な測定ができるように解説しています。


独自情報数13
使える計算式数13
実験データ数11
本章のページ数45
小見出しの数17
図の数18

第19章 VCCSの製作

VCCSとは,Voltage Controlled Current Source(電圧制御電流源)の略です。入力電圧に比例した出力電流が得られます。例えば,入力電圧が正弦波であれば,出力電流も正弦波になります。

オペアンプの評価測定では,主に出力抵抗などのパラメーター測定に用います。市販品例が見あたらず,一部の測定では不可欠になることから製作例を載せました。その性能は,次表の通りです:

伝達関数+10[mA/V]
出力電流範囲±20[mA]
最大コンプライアンス電圧±20[V]
コンプライアンス電圧設定可変
入力電圧範囲±2[V]
フラットネス帯域幅300[kHz]
主電源AC100[V]

このVCCSの特徴は,極性切り替えなしで出力電流を±20[mA]の範囲で連続変化できることです。フラットネス帯域幅は,使用するオペアンプの変更によって1[MHz]程度まで伸ばすことができます。

独自情報数1
使える計算式数0
実験データ数0
本章のページ数8
小見出しの数8
図の数3

第20章 No AC Feedback回路の製作

No AC Feedback回路を使い,正確な測定を行うための解説をしています。正確な測定には,周辺部品の適正なチューニングが必要です。チューニングのコツは,周辺部品の変化によって生じるNo AC Feedback回路の特性の変化を理解することです。

No AC Feedback回路の動作は,計算に乗ります。このことから本章では,個別の周辺部品の変化に対する特性の変化をグラフ化し,イメージからの理解を促します。もちろん計算式や,その結果が実際と一致することもあわせて示しています。

測定項目によっては,ちょっとしたアイデアの有無で測定の難易が分かれます。こうしたアイデアも紹介しています。また,No AC Feedback回路を使った測定では「落とし穴」があります。誤った測定データが,あたかも正しいデータであるかのように見えるのです。こうしたメカニズムも紹介しています。

独自情報数7
使える計算式数10
実験データ数3
本章のページ数17
小見出しの数8
図の数12

第21章 等価入力雑音電圧

等価入力雑音電圧の意味測定方法や,アプリケーション回路で発生する雑音の計算方法などを解説しています。

雑音は,一部の書籍を除いてあまり詳しく論じられていません。その雑音は,基礎を理解すれば実際と計算結果が一致します。ですから本書では,雑音の基礎から応用までを丁寧に解説しています。

雑音の基礎では,等価入力雑音電圧を考える上で必須の熱雑音やショット雑音などを,解説しています。計算では,計算の背景にある考え方を解説し,雑音計算の基礎が把握できるように努めました。

雑音の応用では,実際のオペアンプ回路の出力に現れる雑音を等価入力雑音電圧から求める計算式を示しています。もちろんその導出過程や,計算結果が実測結果と一致することも示しています。

雑音の低減には,簡便な方法として帰還回路に並列コンデンサを付加します。この場合に得られる出力雑音電圧を求める計算式も示しています。並列コンデンサを付加すると,信号帯域幅への影響が現れます。これを含めた適正な並列コンデンサを計算するための計算式も示しています。

雑音は,その実効値と共に必要になるのが,雑音振幅の瞬時値です。これは確率で論じます。この瞬時値の確率分布が,正規分布を成すことは広く知られています。この数値計算が,等価入力雑音電圧から実際にできるよう解説しています。もちろん,この数値計算結果が検証実験結果と一致することも示しています。

等価入力雑音電圧の測定は,「雑音の応用課題」といっても差支えありません。この測定では,DUT単独で閉ループ回路を構成させ,その出力に現れる雑音電圧を測定します。このとき閉ループ回路が取り得るノイズゲインの範囲を求めるなどします。そのとき,帰還抵抗器が発生する熱雑音が与える影響も数値計算で求めます。このような実践的な数値の導出過程なども詳しく説明しています。雑音測定での検討事項は,その測定のみでなく,低雑音増幅器の設計にも活かせます。

独自情報数9
使える計算式数18
実験データ数10
本章のページ数54
小見出しの数19
図の数15

第22章 等価入力雑音電流

等価入力雑音電流の意味測定方法や,アプリケーション回路で発生する雑音の計算方法などを解説しています。

本章では,「等価入力雑音電流の測定」に大きくページを割いています。この測定は,等価入力雑音電流の「応用課題」です。測定にあたって考慮すべき事項は,低雑音増幅器の設計に活用できます。

基礎的な事柄として,熱雑音電流やショット雑音について解説しています。ショット雑音は,計算どおりになることを検証しています。

独自情報数3
使える計算式数4
実験データ数1
本章のページ数13
小見出しの数10
図の数7

第23章 雑音測定器の設計

等価入力雑音電圧・電流測定に使う,雑音測定器の設計・製作に必要な情報や解説をしています。

雑音測定器の仕様は,次のとおりです。

白色雑音測定周波数帯1[kHz]
1/f雑音測定周波数帯0.1〜10[Hz]
入力換算雑音電圧密度@1[kHz]2[nV/√Hz]
入力換算雑音電圧振幅@0.1〜10[Hz]0.6[μVP-P]
DUT用電源・出力電圧可変範囲0〜±20[V](正負独立)
DUT用電源・雑音振幅@0.1〜10[Hz]50[μV]
主電源AC100[V]

この雑音測定器で,大抵のオペアンプの等価入力雑音電圧・電流が測定できます。本章では,部品や測定周波数などの仕様が変わっても作れるように,設計・製作のポイントを解説しています。

雑音測定器の帯域幅は,「等価雑音帯域幅」で設計します。本書では,バターワースで設計したアクティブフィルターを使っています。アクティブフィルターの伝達関数を数値計算ができる計算式で表し,それを基に等価雑音帯域幅の計算や部品に求める精度を求めています。このような計算式の導出過程も,丁寧に解説しています。

アクティブフィルターができあがると,できあがったフィルターの等価雑音帯域幅の評価が必要です。特に低域通過フィルターではこの評価が難しくなりますが,数点の周波数における振幅測定で評価できる手法を紹介しています。

完成した雑音測定器の調整・校正方法も示しています。雑音測定器は,抵抗器が発生する熱雑音を測定しても,計算結果と2[%]の違いしかなく,実用的です。

独自情報数10
使える計算式数10
実験データ数5
本章のページ数61
小見出しの数23
図の数17

第24章 絶対最大定格

絶対最大定格の意味と,比較的多い故障原因例を挙げてその対策を示しています。

絶対最大定格を超えた電気的条件にさらすことを,「EOS(Electrical Over Stress)を加える」などと表現します。大抵のEOSは,設計者が意図しない状況で発生します。そうしたEOSの中でも,多くの電子機器がさらされる可能性があり,しかも気づき難いEOSを2例取り上げています。これらEOSの発生メカニズムと対策を示しています。
「EOS破壊が目立つが,その原因が特定できていない」ケースでは,あるいは一挙解決に向かうかもしれません。

独自情報数3
使える計算式数2
実験データ数5
本章のページ数8
小見出しの数3
図の数8

第25章 V/Iトレーサーの製作

V/Iトレーサーとは,抵抗器を介して被測定対象に電圧を与えて,そこを通じる電流の特性を表示する装置です。V/Iトレーサーで3.9Vのツェナーダイオードを測定した波形は,ここをクリックするとご覧になれます。

最大出力電圧±10[V]以上
最大出力電流±0.1[A]
最大X・Y出力電圧±12[V]以上
最高電流感度外付け抵抗器で任意
スイープ・モード正負, 正のみ, 負のみ
直流モード最大出力電圧範囲内で任意
主電源AC100[V]

V/Iトレーサは,EOS破壊のルートを探す場合に重宝します。
同一オペアンプのEOS破壊前後の波形は,ここをクリックするとご覧になれます。
EOS破壊は,特定の端子間に過電圧が加わるなどで故障に至りますから,当該の端子間の特性変化として現れるわけです。

独自情報数0
使える計算式数0
実験データ数0
本章のページ数4
小見出しの数5
図の数2

第26章 クリックデザイン・マニュアル

本書は,オペアンプのスペック項目で章を区切っています数百ページにも及ぶ内容を把握して,使いこなすのは大変です。そこで,各章を横断的に解説したのが本章です。

内容の一例を挙げれば,反転・非反転増幅器で最終的に出力に現れる直流誤差電圧を,関係するスペック項目とその理由を挙げ,それを解説した小見出しの番号を挙げています。これを実際に設計する順序で示しています。このことで,スペックの相互関係などが把握できます。

同様に直流・交流・雑音を含めて,19パターン示しています。本ホームページで,その概要をご覧いただけます。


独自情報数0
使える計算式数0
実験データ数0
本章のページ数12
小見出しの数19
図の数0

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(C) 勝部雅稔 2008