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EU:CAP改革交渉、一週間遅れの決着を目指す

農業情報研究所WAPIC)

03.6.14

 6月11−12日のEU農相閣僚理事会は共通農業政策(CAP)改革を最終的妥結に持ち込む交渉を次週の火曜日(17日)まで延期することを決定した。

 欧州委員会は、9月のメキシコ・カンクンでのWTO閣僚会合を成功に導くためには、この会合でCAP改革に決着をつけねばならないと主張してきた。しかし、欧州委員会とEU各国、特に改革に強く反対するフランスとの対立は遂に埋められなかった。それどころか、この会合の前日、フランス・シラク大統領とドイツ・シュレーダー首相が会談、ドイツがCAP改革に反対するフランスの立場を支持し、代わりにフランスはEU企業合併ルールに対するドイツの長年の反対を支持するという「フランスの農業」と「ドイツの工業」の利益を取引する密約がなされたと報道された。これによって、欧州委員会が主張するようなCAPの抜本的改革に対する悲観論が一挙に強まっていた。しかし、6月決着の必要性を否定してきフランスも、ともかく来週には決着するという最低限の約束には乗ったことになる。

 とはいえ、妥協に向けてのハードルはなお高い。13日の記者会見でのフィシュラー担当委員の発言("No meaningful farm reform, no planning security for farmers", says Commissioner Fischler,6.13)によれば、これまでに大きな前進はあった。農村開発のための資金供給の増強、青年の農業参入・品質改善・環境保全施策の強化など主要な問題では合意ができている。直接支払を明記された環境・動物福祉・食品安全基準の遵守と結びつけ、これが遵守されない場合には支払をカットすることについても合意ができているという。しかし、改革の核心部分をなすカップリングー直接支払と生産との関連の切断ーについては、フランスは全面的デカップリングへの反対を崩さず、他の多くの国とともに一部分野だけのデカップリングにとどめる部分的デカップリングの主張を堅持している。これも改革の核心の一つをなす穀物と牛乳の保証価格引き下げの欧州委員会提案については、フランスは反対へのドイツの支持をとりつけたとも言われている。

 こうした主張に対して、フィシュラー委員は、一定の柔軟な姿勢は見せている。彼は、上の記者会見で、デカップリングが引き起こすかもしれない生産の崩壊の脅威については的を絞った対抗措置を考えると最初から言っており、この点については交渉の用意があると言う。だから、全面デカップリングか、部分デカップリングかなどというあら捜しの議論はさっさとやめ、真の問題は何かを確認し、その解決策を見つけ出すことのほうがはるかに重要だと主張する。例えば、僅かな条件不利地域での生産のリスクのために穀物部門全体で部分的デカップリングを求めるのは意味がない。それは市場志向を弱め、官僚的統制を増殖させ、WTOでの交渉に不要な拘束を課する結果になるだけだ言う。そして、条件不利地域に関しては、各国からの提案を受け入れる用意もあるとも表明する。牛肉部門については、フィシュラー委員も、一部農民が生産をやめる危険性はもっと大きいと認め、デカップリングからの一定の除外も認めることを示唆している。

 ただし、EUは既に貿易歪曲的補助金の大幅削減をWTOの場で約束している。各国が要求するように穀物・牛肉部門の大きな部分をデカップルから外せば、オリーブ油、綿、砂糖など、次に続く地中諸国海産品での解決策を見つけ出す余地もなくなると警告している。デカップルについて大幅な譲歩はあり得ないということである。

 牛乳・穀物価格については、彼は、バターと穀物の市場見通しはアジェンダ2000の改革を決定した1999年のベルリン・サミット当時よりもずっと悪化している。世界の需要は減り、ドルに対するユーロ高が進んでおり、EUの輸出の世界市場におけるシェアが縮んでいる。こんな状況下で、どうして改革が正当化できないのか、どうしたら将来の競争力を期待できるのか、高価格や輸出補助金の増額が解決策にならないことははっきりしていると言う。現状にこだわれば、被害を受けるのは農民だと警告する。

 対立は深い。しかし、閣僚は1週間の延会の間に可能な妥協を探ることに合意した。EU議長国・ギリシャと欧州委員会は、この間に様々な意見を分析、新たな妥協案を用意する。閣僚は7月17日午後3時、ルクセンブルグで会合を再開する。今のところ、結果はまったく予測できない。

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