地震警報器や緊急地震速報の根拠になっている初期微動ですが、どのようなものか?を解説します。
前掲の「緊急地震速報の現状」の表からリンクしてある地震データ(グラフ)をご覧ください。いずれの地震でも大揺れになる前に、小さな揺れが存在しています。この期間が「初期微動」です。
大抵の地震で初期微動は存在します。まれに、火山性の地震で初期微動の無いものがあるそうです。
さて地震波には、P波とS波があることは学校で習いました。P波は「最初の」という意味のプライマリー波に、S波は「二番目の」と言う意味のセカンダリー波に各々由来します。
初期微動は、最初に到達するP波のことです。ちなみに、S波は「主要動」とも呼ばれます。
P波とS波では、波動の性質が違います。英語圏では、波動の性質を表した名前で呼ばれています。P波は、Compression waveと呼ばれ「圧縮波」と訳せます。S波は、Shear waveと呼ばれ「すべり波」と訳せます。イメージしやすいので、以降の説明はこれらで進めます。
地震が発生すると、震源からあらゆる方向に地震波を生じます。この地震波を、次の2つのモードに分解して考えます。
● 震源が周囲の岩盤を前後方向に揺さぶるモード
● 震源が周囲の岩盤を上下左右の平面方向に揺さぶるモード
前者が、初期微動の圧縮波です。後者は、主要動のすべり波です。ナナメ方向のような地震波は、両者の組み合わせと考えます。
圧縮波とすべり波の違いは、岩盤の粒子レベルで考えるとイメージしやすいと思います。
圧縮波は、ある粒子を押すと、その向こう側の粒子も押され、連鎖的に粒子が圧縮されるようにして波動が伝播します。
すべり波は、ある粒子を上下左右の平面方向に動かすと、その向こう側の粒子もつられて動きます。粒子間の結合の度合いにもよりますが、多少なりともすべるようにして波動が伝播します。
感覚的な話になりますが、圧縮方向の方がすべり方向よりも「伝播のロス」が少なそうであることがわかります。実際もそのとおりで、ロスの少ない圧縮波(初期微動)の伝播速度は、すべり波(主要動)の1.7倍速いのです。圧縮波の速度は速いのですが、すべり波ほどのエネルギーを持ちません。
これら性質から「初期微動」の名のとおり、主要動よりも先に到達し、微動しか生じないのです。
このような原理がわかれば、「圧縮波(前後方向のエネルギー)の存在しない地震は、ほとんど存在しないであろう」ことが理解できます。このことから、「大地震の前には、初期微動が必ず来る」と考えて差し支えないわけです。
これが、地震警報器や緊急地震速報の根拠になっています。
余談ですが、空気のような気体も・海のような液体も圧縮方向のエネルギー(圧縮波)は伝わります。しかし粒子間の結合が無いことから、すべり波は伝わりません。