高感度 地震警報器

 

「緊急地震速報の現状」と「初期微動」について解説しています。


■緊急地震速報の現状■

緊急地震速報は、震源地最寄の地震計が捉えた初期微動(P波)のデータから主要動(S波)を予測して発表されます。
この初期微動検知から緊急地震速報(警報)発表までに、4秒程度を要しています(実績に基づいた数値)。この4秒間で、S波は13.2km進みます。

この発表までの所要時間は、気象庁のホームページで確認できます。 地震を選択して、「緊急地震速報の内容」をクリックします。表示されたページの「2 緊急地震速報の詳細」に書かれています。

緊急地震速報の発表は、一つの地震で複数回行われます。NHKなどの放送局へは、「一般向け緊急地震速報」が配信されます。この発表は専用回線で配信され、放送が視聴者に届くまで更に2秒程度を要しているようです。地デジでは更に1秒程度遅れ、3秒程度が見込まれます(テロップのみ。チャイム音は、さらに1秒を加算)。

FM放送を利用した「緊急地震速報機」と呼ばれる製品があります。この製品は、チャイムが2回連続すると起動する仕組みです。余談ですが重要なこととして、緊急地震速報機は、起動直後にチャイム音が鳴らないことに注意してください。緊急地震速報のチャイムは、多くの場合に2回のみです。この2回の後にスピーカーがONすることから、チャイム音は鳴らないわけです。これ以外にもいくつか注意事項があり、詳しくは気象庁発行ガイドラインの47ページ(pdfファイル)をご覧ください。
話を元に戻して・・・緊急地震速報のチャイムは、2回で2秒程度です。つまり、緊急地震速報機では更に2秒が必要です。

以上を、気象庁が初期微動を捉えて放送受信までの合計時間であらわすと、

  • ラジオ聴取者へ届くまでに6秒 (19.8km)
  • 地デジ視聴者へ届くまでに7秒 (23.1km)
  • 緊急地震速報機の起動までに8秒 (26.4km)

     カッコ内は、S波が更に伝播する距離
となります。

これらの時間と地震警報器のタイミングを、実際の地震波に重ね合わせてみました。
地震波は、気象庁のホームページからダウンロードした直交3軸の加速度データを、計測震度で用いられるフィルタリング処理をしたベクトル合成波です。
下表の地震名をクリックすると、該当データが別ウィンドウに表示されます。

多くの地震で、緊急地震速報の放送が間に合っていないことがわかります。ここで「海溝型地震には間に合う」と言われる方がいらっしゃいますが、東北地方太平洋沖地震の失敗を見れば疑問を持たざるを得ない状況です(十勝沖地震のコメントをご覧下さい)。
地震警報器は、いずれの場合も有効に機能します。ほとんどの大地震で「地震警報器が作動した直後に、震度2〜3程度になっている」ことに注意してください。初期微動は主要動の大きさに概ね比例するようですから、このようになります。このような揺れを感じたら、特に警戒する必要があります。

地震名YYYY/MM/DD震度地震の種類負傷者死者
駿河湾の地震2009/08/116弱プレート内245
岩手県沿岸北部の地震2008/07/246弱スラブ内240
岩手・宮城内陸地震2008/06/146強直下型44817
新潟県中越沖地震2007/07/166強直下型234515
能登半島地震2007/03/256強直下型355
新潟県中越地震2004/10/23直下型480568
十勝沖地震(最大余震)2003/09/266弱海溝型
十勝沖地震(本震)2003/09/266弱海溝型

携帯電話の緊急地震速報では、更に時間がかかるようです。主な原因は、気象庁から携帯電話各社までの回線の複雑さです。私は正確な情報を持っていませんが、「致命的なほどの遅れが出る」という意見があります。
パソコンなどの配信サービスも、同様な状況にあることが予想できます。

緻密な観測網・コンピューター解析・ネットワーク配信・自動警報装置のようなハイテク機器が、機能し難い大地震の方が多いのが現状です。
ローテクですが、地震警報器のように初期微動が感知できる装置を備える方が確実であると思います。


■緊急地震速報が間に合わない地域■

緊急地震速報は時間がかかることから、間に合わない地域が発生します。この範囲を知るための計算式を作ってみました。

緊急地震速報にt[秒]の遅れがあるときに、間に合わない範囲r[km](震源地を中心とする半径)は、
 r=√(((D/5.5+t)×3.3)−D
   D : 震源の深さ[km]
 ※1 この計算は、震源地に観測所がある直下型地震を想定しています。
 ※2 計算ができない(根号内が負になる)場合は、震源地でも間に合うことを意味します。

兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)はD=16[km]ですから、t=6[秒]のとき、r=24.7[km]を得ます。これは、震源地から大阪方面に向えば東灘区あたりです。東灘区で、緊急地震速報と大揺れが同時になります。

この震源地を東京駅に置き換えれば、24.7[km]は横浜市港北区や浦和市あたりです。東京23区は、全域で間に合いません。


■地震警報器の場合■

地震警報器のブザーが鳴って、大揺れになるまでの時間を計算式にしてみました。
前掲「緊急地震速報の現状」にある表の実際の大地震で計算してみると、大体あっています。

地震警報器のブザーが鳴って、大揺れになるまでの時間T[秒]は、
 T=√(D+r)/8.25
   D : 震源の深さ[km]
   r : 震源地までの地上の直線距離[km]

 ※ この計算は、いわゆる「P−S時間」を求めています。

前掲「緊急地震速報が間に合わない地域」の数値のD=16[km],r=24.7[km]で計算すると、T=3.6[秒]を得ます。この数値は、「震源地から24.7[km]地点では、ブザーが鳴り始めて3.6秒後に大揺れになる」という意味です。また「緊急地震速報の3.6秒前にブザーが鳴る」とも言えます。反射的に行動すれば、危険から遠ざかることができます。

震源地で計算する場合はr=0[km]ですから、D=16[km]で計算すればT=1.9[秒]を得ます。このように、必ず大揺れの前にブザーが鳴ります。大揺れをもたらすS波よりも、初期微動のP波が先に到達することを考えれば、当然の結果です。
地震警報器は、被害の大きな震源地付近で真価を発揮します。


■初期微動の正体■

地震警報器や緊急地震速報の根拠になっている初期微動ですが、どのようなものか?を解説します。

前掲の「緊急地震速報の現状」の表からリンクしてある地震データ(グラフ)をご覧ください。いずれの地震でも大揺れになる前に、小さな揺れが存在しています。この期間が「初期微動」です。
大抵の地震で初期微動は存在します。まれに、火山性の地震で初期微動の無いものがあるそうです。

さて地震波には、P波とS波があることは学校で習いました。P波は「最初の」という意味のプライマリー波に、S波は「二番目の」と言う意味のセカンダリー波に各々由来します。
初期微動は、最初に到達するP波のことです。ちなみに、S波は「主要動」とも呼ばれます。

P波とS波では、波動の性質が違います。英語圏では、波動の性質を表した名前で呼ばれています。P波は、Compression waveと呼ばれ「圧縮波」と訳せます。S波は、Shear waveと呼ばれ「すべり波」と訳せます。イメージしやすいので、以降の説明はこれらで進めます。

地震が発生すると、震源からあらゆる方向に地震波を生じます。この地震波を、次の2つのモードに分解して考えます。
 ● 震源が周囲の岩盤を前後方向に揺さぶるモード
 ● 震源が周囲の岩盤を上下左右の平面方向に揺さぶるモード
前者が、初期微動の圧縮波です。後者は、主要動のすべり波です。ナナメ方向のような地震波は、両者の組み合わせと考えます。

圧縮波とすべり波の違いは、岩盤の粒子レベルで考えるとイメージしやすいと思います。
圧縮波は、ある粒子を押すと、その向こう側の粒子も押され、連鎖的に粒子が圧縮されるようにして波動が伝播します。
すべり波は、ある粒子を上下左右の平面方向に動かすと、その向こう側の粒子もつられて動きます。粒子間の結合の度合いにもよりますが、多少なりともすべるようにして波動が伝播します。
感覚的な話になりますが、圧縮方向の方がすべり方向よりも「伝播のロス」が少なそうであることがわかります。実際もそのとおりで、ロスの少ない圧縮波(初期微動)の伝播速度は、すべり波(主要動)の1.7倍速いのです。圧縮波の速度は速いのですが、すべり波ほどのエネルギーを持ちません。

これら性質から「初期微動」の名のとおり、主要動よりも先に到達し、微動しか生じないのです。

このような原理がわかれば、「圧縮波(前後方向のエネルギー)の存在しない地震は、ほとんど存在しないであろう」ことが理解できます。このことから、「大地震の前には、初期微動が必ず来る」と考えて差し支えないわけです。
これが、地震警報器や緊急地震速報の根拠になっています。

余談ですが、空気のような気体も・海のような液体も圧縮方向のエネルギー(圧縮波)は伝わります。しかし粒子間の結合が無いことから、すべり波は伝わりません。


 

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