米国のバイオ燃料補助金 非効率的で、農業・食料・環境にも有害の恐れ

農業情報研究所(WAPIC)

06,10.27

  持続可能な発展国際研究所(IISD)が25日、米国における連邦・州・地方政府のバイオ燃料補助金が年に70億ドル(8300億円)に達しており、現在の政策が続けば、産業が受け取るこれら補助金は数年の間に80億ドルから110億ドルに達すると予想されるが、その公共政策目的達成のための能力は非常に限られているとする研究報告を発表した。

 報告によれば、米国の中東石油への依存、あるいは温室効果ガスの大気中への排出を実質的に減らすバイオ燃料の能力は限られている。政府の産業補助の意図せざる・あり得る悪影響も十分に考慮されていない。

 これら補助金は、既に厚く補助された農業経済を更に歪曲するだけでなく、バイオ燃料原料、特にコーンと大豆の大規模生産の増加、増加するエタノール・バイオジーゼル工場からの排出物は中西部やミシシッピの谷の環境に新たな脅威をもたらしている。

 その上、食料生産と燃料生産の間の激化する競争への懸念も高まっている。重心の後者への移動により、世界の食料価格が上昇、食料援助や安価な輸入品に頼る海外の貧しい人々に破滅的結果をもたらす恐れがある。

 報告は、「農業政策は、かつてのように、エネルギー政策から分離されねばならない」と結論、新たな補助金のモラトリアムと段階的廃止計画を要請する。「エネルギー安全保障と温室効果ガス排出削減というしばしば強調される政策目的を達成するためには、もっと有効なアプローチが利用されるべきだ」と言う。

 Press Release:Biofuels - At What Cost?,10.25
 報告全文:Biofuels: At What Cost? - Government support to ethanol and biodiesel in the United States(要約版

 報告書の著者はマサチュセッツのリサーチ会社・Earth Track, Incの創設者であり、ヘッドであるDoug Koplow氏で、研究はIISDのグローバル補助金イニシアティブ(GSI)が委嘱した。この報告は、6ヵ国(地域)ー米国、EU、スイス、英国、カナダ、オーストラリアーのバイオ燃料に関する研究報告の第一弾という。米国に関する研究は、米国におけるバイオ燃料の生産と消費を支援する200以上の連邦・州・地方政府の生産・消費補助金や料金・税軽減などの他のプログラムを精査した。

 GSIのディレクター・サイモン・アプトン氏によると、「これらの補助金の多くは十分に調整されておらず、標的も絞り込まれていない」。政策決定者は環境や経済へのあり得る影響についての明確な考えを持つことなく、補助金が積み重なっている。無駄になるばかりでなく、大規模な環境への悪影響も考えられる。

 バイオ燃料補助金は、総額で55億ドルから73億ドルと推定され、これは砂糖・綿花生産者への補助金にほぼ等しい。その90%は、コーンベースのエタノールの生産と消費の支援に当てられている。これら補助金は生産高に結びついており、この生産高は民間投資家と補助金そのものにより急増するから、今後大きく増える可能性が高い。

 バイオ燃料の中でも、エタノールは政府補助金の最大にして、最も古くからの受益者となっている。それは、石油価格高騰で外国石油への依存を減らそうと、政府がいくつかのプログラムを立ち上げた1970年代末に遡る。現在のブームの背後には、バイオ燃料は化石燃料よりも温室効果ガス排出が少ないという理屈とともに、当時と同じ理屈が働いている。エタノール生産能力は、去年の初めからだけでも40%増加した。

 エタノール産業は、1リットルあたり12セントの連邦減税を含め、51億ドルから68億ドルの政府補助金を受け取っている(160億リットルを生産)。この額は国の穀物総生産額の6分の1に近い。しかし、自動車燃料の3%足らずを供給するにすぎない。

 植物油や動物油脂から作られるバイオジーゼル燃料の生産ー従って補助金もーはなお少ないが、急速に増えている。生産は、2000年の400万リットルから昨年の7500万リットルに伸びた。

 主として農業廃棄物から生産されるセルロースエタノールの影は薄い。 

 現在のプログラムに基づくと、来るべき6年の政府補助金の年平均額は、エタノールで87億ドル、バイオジーゼルで23億ドルになると予想される。ただ、これには、始まったばかりの多くの州のプログラムは含まれない。

 しかし、温室効果ガス削減に関しても、外国石油への依存の削減に関しても、納税者が得るものはほとんどない。

 報告は、エタノールの生産と利用を通してCO2
排出を1トン減らすために、少なくとも500ドルの連邦・州補助金が必要になると計算する。しかし、これだけあれば、ヨーロッパの排出権取引市場では30トン、シカゴ排出権取引市場では140トンのCO2排出権を購入できる。

 バイオ燃料の外国石油依存削減能力も限られている。現在の見通しでは、2010年に利用される総輸送燃料のうちでバイオ燃料が占める比率は5%足らずにすぎない。大部分の液体バイオ燃料はガソリンか石油ジーゼルとのブレンドとして消費されるから、それらの大きな競争者にはなり得ない。エタノール85%、ガソリン15%のE85についても、それを利用できる車の75%は燃費が最悪のSUVと小型ローラーだ。

 報告によると、E85で走る車を保有する年間コストは500ドルほどで、これは、まさにこの燃料に含まれるエタノールの生産に関連した連邦減税額に等しい。これらの車の保有は、これに他の補助金・200ドルを加えたコストを納税者に課すことになる。

 アプトン氏は、「主張されるバイオ燃料の便益は緊急に見直し、他の方法で同じ目標を達成するコストと比較することが緊急に必要だ」、「それまでは、我々は、すべての輸送燃料への補助金をできるだけ早く廃止する計画を開発することを目指し、米国議会と州が液体バイオ燃料への補助金を増やすか拡大するプログラムのモラトリアムを宣言することを提案する」と言う。

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