穀作地帯に広がるフランス農業危機 気象災害、穀物価格低迷で50年来の重大危機

 

農業情報研究所農業・農村・食料欧州ニュース:16年9月10日

 

 EU牛乳生産割当廃止に端を発するフランスとヨーロッパのの酪農危機と酪農民の政府・乳業企業・スーパー等へ抗議行動については今までに何度か伝えたが*、先週土曜日(10日)、今度はフランスのサントル(中央)地方、ノール(北部)地方の二つの地域農業経営者組合連盟(FRSEA)が、来週水曜日(14日)に予定した対政府抗議行動に立ち上がるように呼びかけた。危機は酪農を中心とする西部から穀物等大規模耕種作物の大生産地帯にまで広がってきたようだ。

 

 パリを取り囲むイル・ド・フランス11県とを含む広大なノール・パリ盆地の農業者は今年、過去5年平均に比べて20億ユーロ(3000億円)以上を失うことになろうという。フランスは1970年代後半、オイルショックや気象災害を契機とする戦後最大の農業危機を経験しているが**、それ以来最も重大な農業危機ということになる。6月の大雨、夏の終わりの厳しい干ばつに加え、世界市場における穀物価格の下落がこの危機を招いた。

 

 サントル-ヴァル・ド・ロワールFRSEAは、信用保証引き受けや建物がない土地に対する免税などすぐにも取りかかれる措置があるのに、政府は50年来の重大な危機に直面している農業者を完全に無視していると怒る。

 

 Crise agricole: la FNSEA appelle à des actionsAFP,Les Echos,16.9.10

 

 今年のEU、フランスの小麦収穫量は悪天候のために落ち込むが、オーストラリア、ロシア、北米、インドなどの記録的増産で世界小麦市場価格は2006年来の低水準に落ち込んでいる(主要穀物・大豆の国際価格の推移)。パリ先物相場もトウモロコシ(小麦より干ばつに弱い)以下への落ち込みが続いている(ヨーロッパ小麦・菜種先物相場の推移)。そして、OECD-FAO農業アウトルック2016-2025によれば、穀物等高騰の10年は終わり、何事もなければ今後10年、世界小麦価格はフラットに推移する。フランス農業危機も当分続く恐れがある。EUもフランス政府も、いつまでも無視するわけにはいかないだろう。農民も新たな生き残り戦略(成長戦略ではない)を模索することになるだろう。

 

 *フランス乳価交渉が決着 生産者の抗議行動停止も、生産費を補うにはほど遠い.16.8.31 牛乳生産割当廃止→価格下落で苦闘するEU農民に包括支援策第2弾 減反廃止後の日本では?EU  酪農品の保証価格買入れ限度数量を倍増 生産割当廃止→価格下落に対処フランス国民の81% スーパーの低価格調達に抗議する農民デモを支持 オランド大統領も腰を上げるフランス西部農民、抗議に立ち上がる 何処も同じ農民泣かせのスーパーの商慣行,16.2.7

 

 **農業成長産業化という妄想――「安倍農政」が「ヨーロッパ型」農業から学ぶべきこ  世界(岩波書店) 20169月号