vCJDの将来の発生予測には同一手術具の使用回数のデータが必要ー英国研究者

農業情報研究所(WAPIC)

06.8.3

  英国クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)サーベイランス・ユニットと衛生・熱帯医学ロンドンスクールの研究者が、狂牛病(BSE)の人間版とされる変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)の将来の発生リスクを予測するためには、手術具が様々な手術に何回使われているかを明らかにする追跡調査が決定的に重要だとする論文を発表した。

 Tini Garske et al,Factors determining the potential for onward transmission of variant Creutzfeldt–Jakob disease via surgical instruments,Journal of The Royal Society Interface(,FirstCite Early Online Publishing,DOI: 10.1098/rsif.2006.0142)
  http://www.journals.royalsoc.ac.uk/media/e3d054ferk1wnlfayddj/contributions/8/0/v/8/80v81437446nu2m5.pdf

  英国では今(06年6月30日)までに161人(うり5人が生存)のvCJD患者が確認されている。

 http://www.gnn.gov.uk/environment/fullDetail.asp?ReleaseID=211771&NewsAreaID=2

  その大部分は1980年・1990年代にBSEに感染した牛肉を食べることで感染したと見られているが、03年末以来これまでにvCJD感染者の血液を輸血を通して感染したと見られる3ケースが発見され、vCJDが汚染された手術具を通しても拡散する可能性があることが確認されている。

 通常、異なる手術の間に手術具の汚染を除去する手続が実施されているとはいえ、この病気の病原体関連物質とされる異常プリオン蛋白質は手術具を作るステンレス・スティールに堅く固着、非常な高温でなければ不活性化できないから、標準的な手続では汚染を完全に除去できないことは既に知られている。

 研究者によると、vCJDがこのルートでどれほど拡散するか、そしてこのようなルートで生じるvCJDがBSE汚染牛肉からの一次的感染症とは独立した”自立感染症”となるかどうかは、一つの手術具が何回再使用されるかに大きく依存する。

 研究者は、英国におけるvCJD患者の医療記録の完全な精査を行い、130人が手術暦を持ち、うち119人は症状を示し始める前に延べ335回の手術を受けていることを発見した。病気がどのように拡散するかを予想するコンピュータ・モデルは、新たな感染数が増えないように保証するには、脳やその他の神経組織にかかわる高リスクの手術には一つの手術具の使用を35回までに抑える必要があることを示した。中位のリスクの手術では感染リスクは低くなる。それでも、英国では毎年非常に多くの手術が行われているから、将来のvCJD発生に大きく影響する可能性がある。

 ところが、同じ手術具が何回使われているかに関する情報はほとんどない。病院は手術具がどれほどの回数使われているかに関するデータを保存していないことが多く、第ニ波のvCJD感染の予測を難しくしているという。研究者は、手術具が何回使われるかを知る手立てを講じる必要があると言う。それはvCJD発生予測を助けるだけではない。感染が知られた患者に使われた手術具の再使用を防ぐことにもつながる。

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 Surgical instruments could spread vCJD, researchers warn,Guardian,8.2
 Scalpels Called Possible Vector for Spreading vCJD,Psychiatric Times,8.2

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