農業情報研究所>グローバリゼーション>二国間 関係・地域協力>ニュース2017年5月17日
EU司法裁 間接投資・ISDS条項を含む自由貿易協定締結は加盟国の承認が必要
EUの欧州司法裁判所(CJEU)が5月16日、2013年9月に合意されたEU-シンガポール自由貿易協定はEU単独では締結できないとする意見を発表した。協定に含まれる間接投資(証券投資など)と投資家・国家間紛争処理(ISDSに関する条項はEUの専権事項に属さない、従って加盟国の同意なしに締結することはできないという。
The free trade agreement with Singapore cannot, in its current form, be concluded by the EU alone,Court of Justice of the European Union,PRESS RELEASE No 52/17、Luxembourg, 16 May 2017
合意された対シンガポール協定はモノとサービスの貿易の分野における関税や非関税障壁の削減に関する古典的諸条項に加え、知的財産権、投資、好況調達、競争、持続可能な発展などのさまざまな貿易関連条項を含む最初の「新世代」自由貿易協定の一つをなす。このような協定の締結はEUの専権事項なのか、それとも合意形成に参加していない加盟国にも権限があるのか。
欧州委員会はこれがEUの専管事項に属するかどうか、CJEUに意見を求めた。欧州委とと欧州議会はEUの専権事項と主張した。しかし、CJEUに意見を求めた閣僚理事会(加盟国の担当閣僚で構成されるEU立法機関)とすべての加盟国政府は、協定の一定の部分はEUと加盟国が権限を共有するか、専ら加盟国が権限を有するのだから、EU単独では協定締結はできないと主張した。 そして、この争いで欧州委が負けたわけである。
前に述べように、EU‐カナダ包括経済貿易協定(CETA)はベルギー・ワロニー地域議会の反乱にもかかわらず何とかの調印にこぎ着けた(ワロニー議会の反乱 大西洋両岸の政治指導者に測りしれない傷 浜矩子氏の所説を批評し・補強する
ただし、加盟国の権限が間接投資とISDSだけにに限定されたとで、意見はEU政府に救いをもたらしたと言えるかもしれない。EU基本条約であるリスボン条約は、農業、サービス貿易、労働・環境・消費基準、投資等にもいかかわり、国内法の改訂を伴う”混合協定”は加盟国・地域38議会の承認を受けねばならないとしている。以前伝えたように、EU司法裁法務官は輸送サービス、対外直接投資以外の投資、輸送サービスに関連した公共サービス、知的財産権の非貿易的側面、労働・環境基準、社会政策・環境政策の分野における諸基準、紛争処理に関する規則とメカニズムなどを含む貿易協定は閣僚理事会と欧州議会だけでなく各国(及び地域)議会の承認を得なければならないとする意見を出している(EU 労働・環境基準等を含む貿易協定は各国議会の批准が必要 欧州裁判所トップが意見,16.12.22
それに比べると、今回の司法栽の意見はEUの専権分野を大きく広げたことになる。ワロニー地域のようなEU主導への抵抗の根拠を奪うことにもなりかねない。
関連記事:An easier path for EU trade agreements(Editorial),FT.com,17.5.17 Aneasier path for EU trade agreements,Financial Times,17.5.17,p.8 EUとのFTA、加盟国議会の承認必要 欧州司法裁 日本経済新聞 17.5.17
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