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GMOが飢餓解決策とはならないーアフリカ指導者

農業情報研究所(WAPIC)

03.6.19

 健康・安全性・民主主義保護を目的とする米国のNPO・パブリック・シチズン(Public Ctizen)によると、消費者運動と栄養改善にかかわるアフリカの二人の代表者が今週、米国議会の記者団を前に、アフリカの飢餓への対応を口実にEUのGMO政策をWTOに訴えた米国を批難するブリーフィングを行なった(African Groups Condemn Bush Administration’s WTO Challenge of European GMO Policies; GMOs Not Answer to African Hunger,6.18)。代表者の一人は、GM製品に頼らないで食糧危機から脱出する道を探っている”アフリカのための消費者国際事務所(CI-ROAF)”の地域理事を務めるジンバブエのアマドゥ・カヌート()Amadou Kanoute)である。もう一人は、ザンビアの”栄養不良防止プログラム(PAM)”の理事長で、飢餓との戦いで国の伝統的食料を利用することを要請しているドリーナ・ニレンダ(Drinah Nyirenda)である。

 ブッシュ政府は、5月、EUの政策の内容そのものを正面から問題にするというよりも、それがアフリカの飢餓との闘いの妨げになっているという道義的側面を強調して、EUをWTOに訴えた(米国、GMO規制でEUをWTO提訴、欧州委は断固反論,03.5.14)。しかし、二人は、GMOはアフリカの飢餓の解決策にならないし、ザンビアはGMO食糧援助を受け入れることなく食糧危機を脱しつつあると語ったという。両者とも、GMO食糧援助を拒否したアフリカの唯一の国・ザンビアにはもはや食糧危機はないと強調した。今年は昨年の2倍近い110万トンのホワイト・メイズを収穫、来年は300万トンの生産をめざし、輸出も可能になるだろうという。

 カヌートは、特に次の点を指摘した。

 ・この数年間にわたり、米国は、各国がGMO規制で予防的手段を取ることを可能にする国連後援の多角的条約・カタルヘナ・バイオセーフティー・議定書を作るためのアフリカ諸政府のイニシアティブを傷つけようとしてきた。米国は議定書への調印を拒否してきたが、いまや50ヵ国が調印、発効に漕ぎつけた。

 ・GMOに対するアフリカ政府と公衆の反対はアフリカの保健と経済の現実に基づくものである。第一に、GMOは特許権付きの商品であり、これは農民が次期の作付けのために収穫物から種を貯えることができず、年々新しい種を買い、年々ライセンス料を払わねばならないことを意味する。これはアフリカ農民の70%以上を支える生産と消費のモデルを破壊する。また、GMOはモノカルチャーを促進し、特殊な条件下で発展した植物の多様性を脅かす。さらに、平均的アフリカ人はカロリーの70%をトウモロコシその他の穀物から摂るが、米国人のこの比率は3-4%にすぎず、[自国民が日常的に食べていて何の害もないのが安全の証拠と米国が主張してもアフリカ人の健康への影響は分っていない。

 ・ブッシュ政府の主張とは反対に、ジンバブエも含むアフリカ諸国は、食糧危機の間、製粉GM食品を希望し、種として撒かれる可能性があり、従って特許種子のライセンス料のことなど考えてもみない農民を「種子奴隷」にする可能性があるGM穀物を拒否した。米国は粉にしない丸ごとのGMOを強要することで、ザンビアに危機を創り出した。

 パブリック・シチズンの発表とはまったく無関係に出されたものであるが、内容的には関連するから、17日の欧州委員会のリリース(WTO case on GMOs)が、GMOの問題を米国がWTOに訴えたことを厳しく批判していることも伝えておく。

 欧州委員会は、GMOの扱いにかかわる問題は、世界中どこでも、高度に社会的・経済的・政治的な「多面的」関心事となっているのに、米国はこれを単なる「コマーシャル」の問題にしていると、米国によるWTO提訴を批判している。様々な利害の適切なバランスを作り出すのはWTO加盟国の正当な権利であり、GMOの分野でも、EUは、常に経済的利害だけでなく、市民の正当な利害に応えようとしてきた。カタルヘナ議定書に見られるように、GMOに関する共通原則が出来つつあり、GMO問題に取り組むための健全な国際的フレームワークを作るためには、貿易紛争に訴えるよりも、国際協力を求めること方がずっと適切であるというのが欧州委員会の基本的立場である。現段階ではWTO協議の要求には乗るけれども、EUはGMOに関する現行規則の実施の実施やGM食・GMOのトレーサビリティー・表示に関する新たな規則の採択による規制のフレームワークの完成の方針を変えることはないと断言する。

 このなかで、GMOと途上国の問題にも触れている。基本的前提は、各国はそれぞれの社会を支配する価値に応じてGMOに関する決定を行なう「主権」を持つということである。これは先進国・途上国を問わず適用される。GM種子が撒かれることを防止するために自身の保護レベルを定め、適切と思われる決定をするのは途上国政府の正当な権利である。

 多くの途上国が農業目的でのGMOの利用を選択しており、特にアルゼンチンは世界第二のGM作物生産国となり、それによってEUへのトウモロコシ輸出も大きく増やしている。しかし、大部分の途上国にとって利益のあるGM作物は乾燥に耐え、酸性土壌に耐える作物であるのに、そのような作物はまだ開発途上であり、普及しているのは途上国の大規模農民に有利な除草剤耐性作物、害虫抵抗性作物だけである。これは小農民には役立たない。その上、バイオテクノロジーだけで食糧危機に取り組めるわけではなく、低所得、貧しいインフラストラクチャー、信用の欠如など、危機のすべての要因に取り組む長期的な持続可能な開発によってにみ、食糧安全保障を確立できる。食糧不足に襲われた多くのアフリカ諸国は、人間の健康・環境への不安、組み換え遺伝子の自身のトウモロコシへの移転のリスク、その拡散による地域・国際貿易と知的所有権問題への悪影響など、重なり合った様々な理由で食糧援助主要供与国にGM食糧の供与を避けるように要請した。EUは、これらの国々の関心がまったく正当な関心であると認め、食糧援助を輸出市場拡大・過剰処理の手段として利用するばかりか、これらの国の正当な関心をEUのGMO政策に反対する宣伝手段として利用する米国の政策は容認できないと言う。

 EUは、途上国の食糧危機の解消に果たすGMOの役割を基本的には否定していない。しかし、少なくとも当面、EUとアフリカ諸国の立場に大きな食い違いはない。しかし、バイテク産業の熱狂的支持に支えられた米国政府の立場が揺らぐこともなさそうである。

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