米国薬品生産GM作物開発企業が資金難で閉鎖 第二世代GM作物の前途は多難

農業情報研究所(WAPIC)

05.12.26

 ニューヨーク・タイムズ紙によると、遺伝子組み換え(GM)作物で薬品を生産しようとしてきたバイテク企業・Large Scale Biology Corporationが、資金が尽きて閉鎖に追い込まれた。およそ70人の従業員が放り出されるという。

 Biotech Company Closes After Running Out of Cash,NY,12.24
 http://www.nytimes.com/2005/12/24/business/24biotech.html

 この企業は、1987年にバイオソース・ジェネティックスとして設立されたもので、GM作物を使って蛋白質ベースの薬品や化学製品を生産しようと試みた最初の企業という。GM植物を使った薬品生産は、インシュリンや成長ホルモンのような薬用蛋白質を生産する通常の方法であるGMバクテリアや動物細胞を使うよりも迅速で、安上がりと主張されている。しかし、環境団体や食品企業は、薬品が食品チェーンに混入、保健上のリスクや高価な製品リコールを引き起こす可能性を指摘、反対を表明してきた。この会社は、このような議論を和らげるために、非食用作物であり、花粉も飛散しないタバコにこの技術を摘要しようとしてきた。会社はタバコが生産する蛋白質を研究機関や産業に販売しており、難病を治療するための酵素、癌治療薬やワクチンの生産を研究してきた。

 しかし、農業バイテク一般をめぐるこのような論争は、このビジネスに携わる小企業の資金集めをなお難しくしているという。会社の創設者であり会長でもあるロバート・L・アーウィン氏は、会社の最大の問題は、このような植物が生産する製品の利用を製薬企業がためらっていることだと言う。作物が生産する薬品は、未だまったく市場に出ていないから、製薬企業はこのような薬品を食品医薬局(FDA)が簡単に承認するかどうか分かっておらず、ほとんどの製薬会社は、いまだ不明なこのプロセスに賭けようとしていない。そのうえ、薬品生産作物の開発者は、製薬企業がこのような薬品を採用するに際しての重要な考慮要因は生産コストの低さだと仮定しているが、薬剤がもともと高価であることを考えれば生産コストは重要問題ではない、このような仮定が間違っていると言う。生産コストは、このような薬品を売り込むための重要な材料にはならないということだ。

 タバコから薬品を抽出する工場のあるケンタッキー州・オーエンズボロ郡の一部リーダーは、タバコからの薬剤生産はタバコ農家の収入源と地方のバイテク産業の基盤を作り出すと期待してきたが、アイオワ州立大学・ロバート・ウィスナー経済学教授の最近の研究は、薬品生産作物から農家と農村経済が得る利益はさほどのものではなさそうだということも明らかにしたという。

 会社はバイテク投資が盛んであった2000年に1株17ドルで株式を公開した。最近は、株式を減らすことで株価下落を食い止めるようと試みたが、先週金曜日(23日)の取引は僅か19セントで引けたという。

 第二世代GM作物に大きな期待をかける農業バイテク企業の前途多難を予測させる出来事だ。 

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