ブラジル政府サトウキビのアマゾン等侵略の禁止へバイオエタノール輸出への悪影響を恐れる

ブラジル政府　サトウキビのアマゾン等侵略の禁止へ　バイオエタノール輸出への悪影響を恐れる

07.7.28

ブラジル政府が、バイオエタノール生産のための無闇なサトウキビ畑拡大が環境と農村社会に破滅的影響を与えているという国際的悪評の払拭に本腰を入れ始めたようだ。

　今月はじめにEUを訪問したルラ大統領は、バイオ燃料のEU市場への輸出拡大を目指し、それがブラジルの貧困削減に大きく貢献していると喧伝、原料であるサトウキビのプランテーションの増大と拡張がアマゾン森林破壊を加速しているのではないか、小農民や食料生産を犠牲にしているのではないか、つまるところ、現在のブラジルのバイオ燃料は環境的・社会的に持続不能なやり方で生産されているのではないかといった欧州に広がる疑念もきっぱり否定して見せた。

　しかし、市民団体はもちろん、欧州議会議員や欧州委員会委員でさえ、多くが半信半疑だ。持続可能な方法で生産されたことを認証されたバイオ燃料のみを輸入する輸入制度の導入が模索されている。輸出への悪影響を恐れ、悪評一掃のための措置の導入に踏み切ったということのようだ。

　インター・プレス・サービス（IPS）が報じるところによると、政府はアマゾン地域とパンタナル湿地でのサトウキビ農園新設の禁止に乗り出すそうである。また、サトウキビの手刈りの前には大量の（1㌶あたり4500㎏と言われる）二酸化炭素を吐き出す枯葉の焼却を行うのが一般的だが、機械刈取りの普及でこの焼却を減らし・枯葉の土への還元を促し、不耕起・直播栽培も導入して環境に優しいサトウキビ栽培を普及させる。食料作物との輪作も奨励、サンパウロ州で最近起きた伝統的なオレンジのサトウキビへの転換のような食料作物地のバイオ燃料原料作物地への転換の動きも抑える。

BRAZIL: In Search of Sustainable Ethanol,IPS,7.26
http://www.ipsnews.net/news.asp?idnews=38675

　この報道によると、ブラジル農業省は7月17日、アマゾンと、パラグアイ・ボリビアにまで広がる同国西部の広大なパンタナル湿地へのサトウキビ侵略を禁止すると発表した。禁止は今後1年以内に、新たな作物を栽培できる地域の登録を通して発効する。その目的は、放牧地としての利用により既に”劣化”した農業地域へのサトウキビの拡大を刺激することにある。発表されたもう一つの措置は、砂糖生産チェーン全体の社会的・環境的認証[社会的・環境的悪影響はないという保証]だという。これでは、エタノール生産拡大に伴うサトウキビ・プランテーションの拡大はアマゾン森林破壊とは無関係で、大量の雇用を生み出すことで貧困軽減に大きく貢献しているというルラ大統領の言い分には必ずしも確信がないと政府が自白したようなものだ。

　ただ、これによって問題がどこまで是正されるかは不透明だ。記事は、「政府が環境に優しい生産基準を確立できるかどうか、また何よりも新たな栽培地域を監視できるかどうかの問題が残っている」と書く。

　既に進んでいるいる放牧により”劣化した農業地域”（つまり草地）へのサトウキビ・プランテーションが環境に優しいとも言えない。それは、アマゾンやパンタナル湿地への進出よりはマシかもしれないが、環境を改善するどころか、悪化させる恐れがある。先の国連バイオエネルギー影響評価報告（国連バイオエネルギー影響評価報告　バイオ燃料産業急拡大に警告,07.5.10）は、次のように述べていた。

　「エネルギー目的で栽培される多種の、一層持続可能な作物でさえ、もし野生の森林や草地に取って代わるとすれば、否定的環境影響があり得る。これらのあり得る影響には、水域の富栄養化、土壌と地表水の酸化、オゾン層破壊（これらすべてが農業からの窒素放出に関連している）や生物多様性とそれに関連した機能の喪失が含まれる。最後に、草地の縮小に関連した遊牧生活スタイルの喪失と、これらの土地に依存する家畜化された、あるいは野生の草食動物のための飼料生産の喪失は、重大な経済的・社会的影響を持つだろう」（同報告、44-45頁）。

　ところが、サトウキビは、こういう”一層持続可能な作物”（例えばヤトロファなど）とは無縁、大量の水と肥料を貪る作物だ。原料サトウキビがアマゾン森林やパンタナル湿地を侵略したプランテーションで生産されたものではないとしても、それで環境に優しく、経済的・社会的悪影響もないとはとうてい保証できない。

　日本に大量のエタノールを輸出する合弁企業の設立でブラジル国有石油・ペトロブラスと合意した日本アルコール販売、三井物産、伊藤忠、丸紅、豊田通商などの日本企業も、広大なサトウキビ・プランテーションでのサトウキビ生産に乗り出す。ブラジル政府からどんな”社会的・環境的認証”を受け取るのだろうか。