GM・非GM作物共存問題EU会議 前進なし リスク評価では欧州委員も見解に相違

農業情報研究所(WAPIC)

06.4.10

 EUにおける遺伝子組み換え(GM)作物と非GM/・有機作物の共存問題をあらゆる角度から論議する欧州委員会主催の会合が4月4日から6日まで、ウィーンで開かれた。

 European Commission;Experts gather in Vienna to discuss co-existence of genetically-modified crops with conventional and organic farming,4.4

 会合結果に関する公式報告は未だ出ていないが、フランスのル・モンド紙の報道によると、この会合に参加した国と地域、農業者、種子業者、研究機関、環境・消費者団体[このリストには欧州委員会も加えるべきだろう]の代表者は、時に野次が論議を脅かすほどに、それぞれの見解を防衛するだけであったという。共存問題をめぐる意見の対立は一向に解消する兆しがない。

 L'Union européenne étale ses discordances sur la question des cultures OGM,Le Monde,4.7
 http://www.lemonde.fr/web/article/0,1-0@2-3228,36-759265@51-746932,0.html

 農業者によるGM作物と非GM作物の”自由な]選択”を確保するための具体的措置に関しては、それを定めた加盟国の間でも違いがあり、これをめぐる意見も対立した。

 GM作物(トウモロコシ)を大規模に栽培する唯一の国であるスペインの農相は、GM作物による非GM作物の汚染を0.9%(それ以内の偶然または不可避の汚染ならばGMOを含むという表示義務を免れる限界)までに抑えるには、GMトウモロコシと非GMトウモロコシを15m離せば十分とした。しかし、農相は、これを超えた多数の汚染の例を引き合いに出したスペインの有機農業者に咎められた。他方、ハンガリーはこの距離を400mから800mとしているが、欧州委員会は規制の行き過ぎと拒否した。

 許容される非GM・有機作物のGM汚染のレベルも激しい論争の対象となった。”汚染の権利”に抗議するある人々は、(検出限界とされる)0.1%でなければならないと主張した。しかし、多くの研究者は、これは達成不可能だし、この数字が下がれば下がるほど関連業界のコストが高まると応酬した。

 これらの不確実性を前に、多くの人々が、農業者が自主的に選択するのでないかぎりEUにおける商品の自由流通のルールに違反するとされるGMフリーにとどまる可能性を改めて要求した。

 また、多くの参加者は、法律を加盟国間で調和させ、国境を越える問題を解決するために、欧州委員会がヨーロッパ全体における共通の規制の制定に取り組むように要求した。しかし、欧州委員会は、 共存措置は地域で大きく異なる地理的・気候的条件や農業システムを考慮して決められなければならないとして、この選択肢を拒絶する従来の姿勢を繰り返すばかりだった。

 しかし、最も注目されるのは、共存問題は人々の健康や環境のとっての安全性の問題ではなく、経済的問題にすぎないとする従来の欧州委員会の立場についても、委員会内部になお対立があることが露呈 したことだ。これは、GM作物のリスク評価の信頼性と透明性にかかわる見解の相違を反映している。

 開会演説で、マリアン・フィッシャー=ボエル農業農村開発担当委員は、「共存政策は人々、動物、環境の安全性に関係するものではない。それは健康や環境へのリスクを管理するための手段ではない。EUでは、非GM作物の傍で与えられたGM作物をいかに栽培するかの問題は、この作物がEUの評価システムにより既に無害と立証されている場合にのみ生じる。それは、加盟国内及びEUレベルの多数の機関の知識と意見を汲み出す」と強調した。

 つまり、EUで栽培されるGM作物は、透明にして民主的な世界で最も厳格な評価システムにより健康と環境に無害とされたものなのだから、仮に非GM作物の汚染が起きたとしても安全性の問題はまったくない、ただ、汚染により表示をしなければならないことから生じる経済的損害の問題が生じるだけだという前フィシュラー委員の見解を繰り返すだけだ。

 Mariann Fischer Boel:Member of the European Commission responsible for Agriculture and Rural Development:Co-existence of genetically modified crops with conventional and organic farming Conference on co-existence Vienna, 5 April 2006

 しかし、彼女とともにこの会合に臨んだスタブロス・ディマス環境担当委員は、EUの現在のGM作物の環境リスク評価はなお不完全で、改善の余地があることを示唆した。

 彼は、GM作物の栽培から生じるあり得るリスクから環境を守ることの重要性を強調、共存措置はそのために役割を果たすが、必要なレベルの信頼性と透明性を提供できる健全なリスク評価とリスク管理で補完されねばならないとした上で次のように言う。

 新たなGM作物品種はその安全性と環境影響に関して完全なリスク評価を行うことが不可欠だ。また、このような品種が栽培されるときには、監視、トレーサビリティーや共存を含む適切な管理措置が実施されることも至上命令だ。環境リスク評価はあらゆる批判に耐えるものでなければならない。

 あらゆるタイプのリスクへの取り組みを確保するためにこのような評価を行うときに従うべき原則を明記するGMOの環境への故意の放出に関する指令(2001/18)やGM食品・飼料に関する新たな規則に鑑みれば、短期的・直接的影響だけでなく、長期的・間接的影響に取り組むことが死活的に重要だ。指令は市販後監視、表示、トレーサビリティーも義務付け、加盟国が共存措置を策定することも可能にしている。

 しかし、GM製品の栽培の許可申請は(今までのところ、新たな規制の枠組みの下で栽培を許可されたGM製品はないー許可されたのは食品・飼料やその成分としての利用だけだ)、新たな一連のあり得る環境リスク、特に生物多様性に影響し得る長期的影響を生む。2005年12月と2006年3月の環境相理事会で多くの加盟国がこの問題を取り上げ、リスク評価手続に一層かかわるべきだという希望を表明した。

 新たな規制の枠組みがリスク評価の健全な基礎を提供していることは事実だが、このリスク評価への科学的インプットが可能なかぎり最高の質を持つように保証せねばならない。従って、リスク評価手続は、必要に応じた調整を受けねばならない。

 新たな規制の枠組みの下でのリスク評価手続で主要な役割を演じることになった欧州食品安全機関(EFSA)も、最近、EU及び国家レベルで関係者の意見を考慮する独立外部評価を行ったが (*)、この評価はコミュニケーションと加盟国との協同に関連したものを含むリスク評価に関連した慣行の一定の変更が要求されるかもしれないことを示している。この報告がEFSAと欧州委員会により十全に考慮されることは明らかだ。

 彼は、現在のリスク評価の改善の必要性をはっきりと認めたわけだ。

 「実際、我々がリスク評価の慣行の改善し、それを一層透明なものにすれば、共存措置も一層の信頼をもって策定できる。地域はGMフリーソーンの創出が不要と分かり、加盟国は環境へのあり得るリスクをめぐる懸念に取り組むために禁止に訴える必要性も感じなくなるだろう」と言う。   

 Stavros Dimas:Member of the European Commission, responsible for Environment:Co-existence of genetically modified, conventional and organic crops: Freedom of choice Conference on GMO co-existence Vienna, 05 April 2006

 欧州委員会も、多くの科学者も、リスクゼロの社会はない、公衆が科学の保証する最小限のリスクを受け入れて革新・変化への抵抗をやめないかぎり、経済と社会の進歩を止まってしまうと、信頼できる透明なリスクコミュニケーションの必要性を強調してきた。2003年12月に開かれた欧州市民のリスクの受け止め方(パーセプション)に関する会合で、当時のバーン食品安全・消費者保護担当委員は、GM食品のリスクの科学的証拠はほとんどないか、まったくなく、喫煙が危険という科学的証拠は山積しているにもかかわらず、欧州市民はタバコよりGM食品の方が危険と受け止めている。最近、多くのEU加盟国が設立した政府から独立した信頼でき、透明性を増した科学諮問機関が、公的機関と市民のパーセプションのギャップの解消を助けることを期待すると述べた。

 しかし、当時のキュナースト・ドイツ消費者保護・食料・農業相は、多くの食品安全問題をめぐる科学的不確実性がある、政府も規制者も、分かること・分からないこと両方についての開放的で誠実な政策の追求によってのみが、市民の信頼を勝ち取ることができるだろうと述べた。ディマス環境担当委員の発言は、このような政策の追求においてEUがなお立ち遅れていることを示す。EFSAさえ、市民の信頼を勝ち取っていない。日本の食品安全委員会やリスク管理機関はなおさらだ。”リスク社会”の革新と変化を阻んでいるのは、市民というより科学者であり、リスク管理機関ではないか。

 RISK PERCEPTION: SCIENCE, PUBLIC DEBATE AND POLICY MAKING 4-5 December 2003, Charlemagne Conference Centre, Brussels;http://europa.eu.int/comm/food/risk_perception/index.htm

 なお、これらの問題は、4月18-19日のウィーンで開かれるGMO政策に関するもうひとつの会合でさらに議論されるという。

 *Public consultation of the working document "Draft Guidance Document for the Risk Assessment of GMMs and their Derived Products Intended for Food and Feed Use":http://www.efsa.eu.int/science/gmo/gmo_consultations/1035_en.html

 その他の関連ニュース
 
EU Caution Puts Brakes on GM Food Legislation,DW-world,4.6
 http://www.dw-world.de/dw/article/0,2144,1961921,00.html

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