カナダ フィードバン以後生まれの牛に狂牛病確認

農業情報研究所(WAPIC)

06.4.17

 カナダ食品検査局(CFIA)が16日、ウイニペグの国立外来動物病センターの検査でブリティッシュ・コロンビア州の牛に狂牛病(BSE)が確認されたと発表した。CFIAは13日、狂牛病を疑われるブリティッシュ・コロンビア州の1頭の牛からのサンプルの確認検査中と発表したが、この牛の狂牛病感染が最終的に確認されたことになる。

 FINAL TESTING CONFIRMS BSE CASE IN B.C.,06.4,16
  http://www.inspection.gc.ca/english/corpaffr/newcom/2006/20060416e.shtml

  カナダにおける狂牛病のケースとしては、2003年5月20日に確認された第1例、2005年1月2日に確認された第2例、2005年1月11日に確認された第3例に続く第4例目のケースとなる。そのほか、2005年12月25日には、カナダ産生まれの牛のケースが米国で発見されているから、カナダ産生まれのケースとしては5例目となる。

 いままでの4ケースの出生地は、第1例がサスカチェワン州、その他はアルバータ州であったから、ブリティッシュ・コロンビア州生まれとしては初めてのケースとなる。ただし、これらの州は互いに隣接したカナダ西部の州である。従って、なおこの地域が北米における狂牛病の集中発生地(クラスター)となっていると する解釈が成り立つかもしれない。しかし、カナダの肉牛飼育部部門のおよそ70%がアルバータに集中しており、高リスク牛に的を絞ったカナダの狂牛病検査が米国に比べればずっとしっかりしていることを考えれば、たまたまこの地域で発見が多くなっただけと見ることもできる。この集中は、北米の他の地域の狂牛病発生率がこの地域よりも非常に低いことは、必ずしも意味しない。

 新たなケースの発生で注目されるのは、これが6歳の乳牛(ホルスタイン種)で、1997年8月のフィードバン以後に生まれた牛であることだ。これまでのケースは、すべてそれ以前か、その直後に生まれたものだった。従って、感染源はフィードバン以前に製造された飼料と見られてきた。今回のケースは、フィードバンの有効性を改めて問うことになる。

 米国・テキサスのケースを含めた北米の5つのケースについて、CFIAは、狂牛病が一つの地域ー恐らくは、1982-89年に英国からの168頭の牛の大部分を輸入したアルバーターに定着し、動物およびその副産物は北米の”キャトルサイクル”の正常な活動を通じて新たな地域に移動するー東西というより南北の方向でーことから、異なる地理的飼料ゾーンに広がった可能性があるとしてきた。北米4例目のテキサスのケースはテキサスにおけるもう一つの狂牛病地理的クラスターが存在する可能性を示すと言う。

 また、これらの5つのケースの年齢も、北米における二つの一時的クラスターの存在の可能性を支持する、これらのクラスターは、1982-89年の英国からの牛輸入を通して北米に入った最初の狂牛病感染性から生じた可能性があると言う。病気の兆候を必ずしも示さないこれら輸入牛が1991-92年に北米の飼育システムに入り、カナダの第一世代の狂牛病を引き起こした可能性がある。1992年頃に生まれたテキサスのケースは米国における第一世代の狂牛病のシグナルかもしれない。

 そして、カナダではフィードバン以前の1996年から1997年の間に低レベルの感染性が発見されないままに流通、飼育システムを再汚染した可能性がある。これが2003年5月に明らかになったカナダにおける第二世代の狂牛病を引き起こした可能性がある、2003年5月から2005年6月のカナダ生まれのケースの年齢(70-98ヵ月)は、1996-98年に生後の早期の時期を過ごしたケースの集中発生を生んだという仮説を支持すると分析する。

 このように、現在のクラスターがフィードバン以前の狂牛病汚染飼料から生じたものである以上、認められたクラスター、またはさらなるクラスターの内部で少数のケースが将来発生する可能性は排除できないが、狂牛病発生レベルが極度に低く、低下しつつあるというわけである。

 Canada’s Assessment of the North American BSE Cases Diagnosed From 2003 to 2005 (Part II),06.1.23.
  http://www.inspection.gc.ca/english/anima/heasan/disemala/bseesb/eval2005/evale.shtml#nat

  このような仮説は、明らかにフィードバン以後に生まれた牛に狂牛病が確認された今も支持できるのだろうか。それが問題だ。

 CFIAは、カナダのフィードバンの設計・実施・順守は過去数年、多くの国により厳格に評価され、堅固で有効に執行されているとされてきたが、可能な場合には引き続き改善することを約束する、フィードバン強化はカナダにおける狂牛病根絶を加速するだろう、従って規制の修正を提案しており、今や最終的結論に達しつつあると言う。

 そして、フィードバンは引き続き狂牛病拡散を制限する一方、国家サーベイランス・プログラムはカナダ牛群の健康を有効に監視している。高リスク牛を標的とするサーベイランス・プログラムは2003年以来、このような牛10万頭を検査したが、過去3年に5頭に狂牛病が発見されただけで、これらのケースの年齢も、カナダにおける狂牛病が非常に少なく、減りつつあるという結論を支持すると言う。

 CFIAは、この牛の狂牛病最終確認の前に、この牛の出生日(2000年4月)と出生農場は既に確認した、飼料を中心としたあり得るあらゆる感染源の調査も実行中と言う。しかし、今のところ、この結論が揺らぐことはなさそうだ。CFIAの上級獣医は、フィードバン以前に流通に入っていた汚染飼料で感染したと疑い、このケースは恐らく飼育システム内部に残っていた少量の汚染残留物の結果だろうと言っているという。

 Mad cow case in B.C. confirmed,Globe and mail,4.16
 http://www.theglobeandmail.com/servlet/story/RTGAM.20060416.wmoo0416/BNStory/National/home

 英国、アイルランド、フランス、スイスなどの例からしても、それは確かにあり得る。これらの国のフィードバン以後に生まれた牛の感染例は大きく減ったが、完全にはなくなっていない。とはいえ、カナダでも同様に減るかどうかは分からない。カナダのフィードバンは、これらの国と異なり、特定危険部位 (SRM)を完全には排除していないからだ()。6歳という非常に典型的な年齢で発見されたことも、感染性は大きく減らずに残存している可能性を疑わせる。日本やヨーロッパのように健康に見える牛の検査も実施していれば、フィードバン実施以後に生まれた牛についてもずっと多くの感染が発見されるかもしれない。

 提案されているフィードバンの強化(カナダ、すべての動物飼料・肥料からの牛特定危険部位排除を提案,04,12.13)の実施以後ならばともかく、 現在の段階で「カナダにおける狂牛病が非常に少なく、減りつつある」と結論するのは早すぎる。 このような根拠不確かな発言がリスク評価とリスク管理への信頼を失わせ、消費者の不安を煽る原因になっていることに、何処の科学者・政府も未だに気付かないのだろうか。

 (注)わが国食品安全委員会プリオン専門調査会の「我が国における牛海綿状脳症(BSE)対策に係る食品健康影響評価」(http://www.fsc.go.jp/bse_hyouka_kekka_170609.pdf)は、「肉骨粉あるいはSRMの反芻動物への使用禁止効果」(禁止前3年間と禁止後3年間の陽性数の比」)として次のような数字を掲げている。、

 英国(1988年6月、反芻動物飼料への反芻動物蛋白質利用の禁止):0.29。SRM禁止は1990年9月、その実効性確保の追加措置=頭蓋の肉骨粉への加工の禁止等は1995年8月、肉骨粉全面禁止は1996年8月。

 スイス(1990年、反芻動物飼料への反芻動物蛋白質利用の禁止):0.6。SRM禁止は1996年、肉骨粉全面禁止は2001年。

 フランス(1996年6月、すべての反芻動物の脳・脊髄・眼の利用禁止と焼却の義務化 ):0.37。牛用飼料への肉骨粉と動物性蛋白質禁止は1990年8月、肉骨粉全面禁止は2000年11月。

 アイルランド(1997年2月、飼料へのSRM利用の禁止):0.55。反芻動物飼料への反芻動物蛋白質利用の禁止は1990年、肉骨粉全面禁止は2001年。

 反芻動物飼料への一定の動物蛋白質の使用禁止にかかわる英国、スイスの数字と、SRM禁止にかかわるフランス、アイルランドの数字にほとんど差がないように見える。しかし、英国の1998年規制後3年間の数字には、SRMを禁止した1990年以後の数字も含まれる。実際の数字は、1988年:22,265件、1989年:12,746件だったものが、1990年:5,747件、1991年:4,778件に大きく減っている(図1参照)。反芻動物飼料への一定の動物蛋白質の禁止だけで0.29と大きく減ったとすることには疑問がある。アイルランドについては、SRM禁止がどこまで厳格に執行されたか疑問がある。

 フランスのSRM禁止措置については、食品衛生安全機関(AFSSA)の2003年初めの報告(フランス:AFSSA、BSE進展状況の「総括」報告書,03.2.24)が、それが発生減少にどの程度貢献したか数字で評価はできないが(以前のサーベイランス体制の不備によるデータの信頼性に問題があることや禁止後間もないために感染していてもなお発見できないケースがあり得るため)、有効性は認めている。この報告後の発生状況は、これを改めて確認させる。他方、牛用飼料への肉骨粉と動物性蛋白質禁止(1990年)の効果は確認できない。スイスについても同様だ。反芻動物飼料への反芻動物蛋白質利用の禁止の効果は確認できないが (一時的には減ったが再増した)、90年代半ばにアクティブ・サーベイランスが始まったのちの信頼度が比較的高いと思われる数字からすると、SRM禁止の効果は相当に大きかったように思われる(図2参照)。

 こうしたことから、SRM規制と交差汚染防止措置(鶏や豚への)を伴わないフィードバンの発生抑制効果は相当に減殺されると思われる。

 図1

 

Source:Confirmed cases of BSE in Great Britain by year of birth where known

図2

 Source:Graphique de l'année de naissance des cas détectés depuis 1991;Nombre de cas par année de naissance

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