「ミツバチ守る農薬禁止は正当化される」 フィナンシャル・タイムズ社説の紹介

農業情報研究所環境農薬・化学物質・有害物質2016年8月18日

 昨日、ミツバチの減少とネオニコチノイド系殺虫剤の関連に関するイギリスの研究を紹介した(ネオニコチノイドとミツハチの減少を関連づける強力な証拠 イギリスの新研究が発見)。日本ではほとんど関心をひかない(ようにみえる)この問題、ミツバチがやってこないために庭のゴーヤーの実が例年どおりに育たないわが家にとって大問題だが、イギリスでも相当ショッキングなはなしのようだ。研究が発表された日の翌日、フィナンシャル・タイムズ紙は、「ミツバチを守る農薬禁止は正当化される」と題する社説を掲げた。その大要を紹介しておこう。

 A pesticide ban for bees is justified,FT.com,16.8.17

 環境グループ・地球の友によるイギリス・ミツバチ・カウントは今夏、37万のミツバチ目撃情報を記録した。ヨーロッパ中で見られ、特に米国では激烈な野生ミツバチの減少と商用蜂群崩壊症候群は古くからの関心事であるが、一定の農薬との関連性については、環境運動家、農民、農薬産業が激しく争っている。

 しかし、ボランティアの18年にわたる目撃情報に基づく新たな研究は重要である。多くは実験室で行われた以前の研究よりも長期にわたり、多くの種を対象としているからだ。新たな研究は、決定的ではないかもしれないが、政策メーカーが無視するには余りに強力な証拠を発見した。ミツバチの健康は非政府環境団体のキャンペーンの題材として重要であるだけではなく、世界の食料供給にとっても決定的に重要だ。果物、野菜、コーヒー、チョコレートなど世界の食用作物の4分の3以上がミツバチによる授粉に依存している。

 これら農薬の使用について米国ではいかなる制限もないが、EUは2年間のモラトリアムを課した。これは2017年初めに見直されることになっているが、最新の証拠はルールの強化を考えるべきことを示唆している。

 政策メーカーは農薬メーカーの論拠を疑うべきだろう。作物収量をめぐる農民の懸念は理解できるが、最近のイギリスの分析によれば、ネオニコチノイドが農民の利潤を増やすわけではない。害虫防除の他の方法がある。

 イギリスでは、所轄大臣がEUの禁止に反対、2015年には例外的にナタネ栽培者の使用を許した。今年は許さなかったが、今後、EU離脱に伴うより広範な政策改変の文脈の中で論争が起きるだろう。EU離脱で、イギリスは自身の環境基準を作ることになる。政府は、独自の農民支援策も講じなけねばならない。

 近年、EU補助金の大部分は農民の環境保護活動への支払に使われてきた。問題はテレサ・メイ政府が環境措置に同様な重要性を与えるかどうかである。ネオニコチノイドに対してどんな立場を取るか、それが最初の試金石となる。

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 ところでわが国農水省、斑点米を生み出すカメムシを退治するにはネオニコチノイドが不可欠、禁止すれば米の等級が落ち、農家は大損害を受けるとネイニコチノイド禁止要求を断固蹴飛ばしている。しかし、農薬に頼らない斑点米被害防止・軽減法がないわけではない(例えば、農薬を減らしても斑点米は増えません - 北海道立総合研究機構斑点米の加害昆虫:カメムシ防除に農薬はいらない)。さらに、斑点米発生に伴う経済的被害は「生産と消費の実態」を無視した時代遅れの農産物検査法(岩手県議会「農産物検査制度の見直しを求める意見書」2016年4月24日*)により人為的に生み出されるものにすぎない。こんなことを続けていれば、そのうち、養蜂家のみならず、多くの果樹農家、野菜農家が大損害を受けることになるだろう。わが家のゴーヤーも食べられなくなる。

  * 農産物検査法に基づく農産物検査について、生産・消費の実態を踏まえた見直しを図るように強く要望する。

  理由 農産物検査法は、農産物の公正かつ円滑な取引と品質の改善とを助長し、あわせて農家経済の発展と農産物消費の合理化とに寄与することを目的として、戦後の昭和26年に制定され、生産者、消費者双方にとって重要な役割を担ってきた。

  しかし、現在では、米の流通を自由化され、生産者から消費者への直送販売を始め、、あらゆる形態で販売される時代となり、また、消費形態も家庭用は減少し、業務用が半数を超えている。

  一方、生産現場においては、収獲から乾燥調製まで機械化が進み、被害粒等が混入している米であっても、進歩した選別機で取り除くことにより1等米として仕上げて出荷されているなど、米の流通と生産の実態は時代とともに大きく変化している。

  よって、国においては、農産物検査法に基づく農産物検査について、生産・消費の実態を踏まえた見直しを図るよう強く要望する。

  上記のとおり地方自治法第99条の規定により意見書を提出する。

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